第15話 昼食
「ええ?お前あのモンスターハウスに住んでんの?」
フェリアと余りにも呆気ない再会を果たし、それぞれこの15年間、どのように生きてきたかお互いの話で盛り上がっていた。そんな話の中で住み始めたアパートメントの話をした時、フェリアの口から出たセリフである。
ペチッっとフェリアのおでこにデコピンする。
「失礼な事いわないの、マダムを優しいし、何より相手の気持ちを汲んでくれる素晴らしい方です」
(まあ、私も初見では衝撃を受けたけど・・・)
「いやあ、昔から街の中では割と有名なんだよねえ、あのおっさん」
「しかし、アンジェにそこまで言わせるなら結局、見た目や噂だけじゃ本質は見抜けないな」
ウン、ウンと頷き、何故か妙に感心してる。
「それとね、なんと言っても出してくれる料理が絶品ね」
「特に、香草で作った鳥の蒸し焼きは最高よ」
ついつい思い出してしまう。
「ぐぅぅぅ・・」
そんな話をしていると腹の虫が何か食べ物寄こせと唸る。
「あー、そろそろお昼か、昼飯食いに行こうぜー」
「もうそんな時間なのね、案内がてら良いお店紹介してちょうだいな」
そんな事を口走りながら、工房を出ると日が一番高い所に来ている。う~んっと伸びをしながら大通りを目指して二人で歩いていると、相変わらずこの辺りの視線が痛い。
商業ギルドの横を抜け、噴水広場に出るとちょうど冒険者ギルドから出てくるパーティー御一行を見かける。その中にハルトがいた。そして私に気が付くと手を振って寄って来る。
「おう、アンジェリカ!」
「ハルトはこれから出立?」
「ああ、西に四日ほど行った所に新たな遺跡洞窟が発見されたんで、そこのマッピング依頼だな、しかも2パーティー参加のでかい仕事だ!」
そう話すハルトは本当に嬉しそうだ。
「ってことは、しばらく家には帰って来ないんだ」
「マダムには一応言ってあるけど・・ん、誰だ?」
私の横で暇そうに周りを見ているフェリアを見て聞いてくる。
「ああ、今回私の装備の製作をしてくれるフェリアよ、私の友人」
「お前友達いたのか」
――すっごい失礼な事、言われた気がする。
「まあいいや、俺はハルトだ、よろしくフェリアさん」
「おう、フェリアだ、よろしくなイケメン!」
二人ガシッっと握手する。
ギリギリギリ・・お互い笑顔で握手するも偉く力が入ってる。
二人で引きつった笑顔で長い握手をしていると後ろで見ていたパーティーの一人が痺れを切らせてハルトを呼ぶ。
「おい、ハルトいつまで遊んでんだよ、もう行くぞ」
パッと手を放すと私に軽く挨拶してから待っている五人の方に向かう。
「それにしても、何にしてたの?二人で」
先ほどの力比べを聞く。
「いや、なんかアイツと握手した瞬間、直感的に(こいつは敵)なような気がしたんだ」
???意味が分からないんだけど。
ハルトを見ると、リーダーっぽい人物に適当に挨拶してる。
「悪い、悪い、さあ行こうぜ」
「・・・」
無言でぞろぞろ街の外に向かって行く一行を見送るも、何かモヤモヤした気分になる。
「あの人・・」
バーグだったか、ギルドでハルトを睨めつけていた人。
(評判を気にすれば、流石にまた置いてけぼりをするとは考え難いよね)
それから二人で昼食を取るため、フェリアの案内で大通り横の路地にある古びた食堂に入ることになった。看板には【鈴の音】って書いてある。
カランッ――ドアを開けると中は意外とこじんまりとしているが綺麗なカウンターと花が飾られてるテーブルがとても清潔感があって好感持てるお店だ。
「マスター、ランチ二つ~」
常連なのか入った途端、カウンターの奥で仕込みをしている見た目ダンディーなおじさんに声をかける。
「お、フェリアちゃん、今日は大盛じゃなくて二人前も食べるのかい?」
「食えるか!」
「ははは、冗談だよ。そちらは初めてだね」
見た目もダンディーだけど、声もダンディーだ。
「あ、こんにちは~」
「いらっしゃい、好きなところに座ってね」
「有難うございます」
「まったく、そんな大食いじゃないっての」
ぶつぶつ言いながらフェリアが窓際の席に座ると、私も合わせて対面に座る。
カウンターの傍の扉が開くと、少年がお盆に水の入ったコップを二つ運んで私の席に置く。
「いらっしゃいませ~」
「はい、ありがとう」
お礼を言うと、照れたような顔をしてもう一つのコップを置く。
「うちはツケはやってないよ」
フェリアの顔を見ると、にべもない事を言われる。
「な、ちゃんと今日はお金あるわい」
抗議をしているが、・・今日はって事はツケをたまにやってるのね。そう思いながら彼を見ると私の顔をジッと見ている。
「ん?何かな?」
「お姉さん、魔族なの?その角、本物?」
好奇心で瞳をキラキラさせながら質問をしてくる。
―――か、可愛い!
「本物よ、触ってみる?」
体を屈めると、少年はその角を恐る恐る触ると歓喜したように叫ぶ。
「わあ、すごい本物の角だ、かっこいい!」
「ふふ」
カウンターの向こうで父親に興奮しながら報告してる姿をみて微笑んでると、ジト目でフェリアが見て一言
「お前、そういう系か?・・・」
「ち、違います。純粋に・・・可愛いと思っただけです」
その後はやってきたランチを頬張りながら、他愛ない話をしていたが、ふと思いだす。
「ねえ、パルシェの事なんだけど・・」
「ん、まあ、アンジェと簡単に会えたんだから向こうから、ひょっこり現れるんじゃね?」
「そうかも知れないけど、なんかこの街に居ないような気がする」
「要領悪そうなやつだったから、今頃どこかの崖から落ちかけたりしてな」
「それじゃあ困るわよ」
フードの神様は、ある程度、命の危機がないようにすると言っていたし・・・。
◆ ◆ ◆
「おい!がんばれ、もうちょっとだ!」
「は、はい」
ハルトは焦っていた。脆く崩れかけていた橋が本格的に崩れ始めたのだ。この下には一本のロープに少女が一人、漆黒の奈落に落ちないように必死で掴まっていた。
「うおおおおお!」
軽い少女と言っても、上からロープで引き上げるとなると相当力がいる。足を踏ん張り、悲鳴を上げる筋肉に鞭うって、全力で引き上げる。
何とか足元に手が届く位置まで引き上げると、彼女は必死に
「はあ、はあ、はあ、あ、ありがとうございます」
少女は息も絶え絶えにお礼を言う。
「はあ、はあ、はあ、いや、ケガはないか?」
よろよろと座り込みながら、安否を聞くと少女は大丈夫ですと答えた。
ゴゴゴゴゴゴゴ、轟音と共に先ほどまでいた石の橋は奈落に崩れ去っていく。
「ちっ、まずいなこれじゃ入り口に戻れないぞ」
橋のあった向こう側を恨めしそうに眺めながら悪態をついた。
今回、新しい遺跡の調査に二つのパーティーが参加した。一つはハルトの組ともう一つは彼女の組で
ハルトは松明の火でぐるりと確認をする。
「ふう、退路がないとなると先に進むしかなさそうだな」
「別のルートがあるかも知れない、とりあえず移動しよう、えっと・・・」
「あ、わたし魔導士のパルシェといいます」
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