第14話 装備
「はあ?忙しいんじゃ、失せな!」
「金貨一万枚なら引き受けてやってもいい!」
「さっさと目の前から消えないとこの斧の錆にするぞ!」
「かえれ!かえれ!魔族に作ってやれるもんなんてないんだよ!」
髭モジャの厳ついドワーフがハンマーを振り回すので、仕方なくお店を後にした。
にべもない。これで四件目だ。
「まさかここまで嫌われているとは・・・」
炉の煙が立ち登る鍛冶屋街に入った途端、周りから怪訝そうな目で見られていたので、多少の覚悟はしていたんですが。
中央広場の方に繋がる道を戻りながら、どうしたものかとトボトボと歩いていると、建物の隙間からこちらにおいで、おいで、している腕が見えた。
「怪しい・・・」
そう思いつつ警戒しながら近づくとひょこっと、女の子が顔を出す。
「へい、そこの美人な魔族のお姉さん、鍛冶屋をお探しですかな?」
浅黒い肌、緑の瞳、赤い髪で片方側におさげが特徴的な娘が立っていた。筋肉質だけど私と同じくらいの背丈でドワーフ族にしては全体的に人族に近い感じがする。
「お探しですが」
「うちのお店に来ない?どんな鎧も盾も剣でも何でも注文受けるよ」
とびきりの営業スマイル。
「・・・はっきり聞くけど私、魔族だからほとんど断られてるのに何故です?」
予算の都合上、詐欺まがいの事をされると、致命的になるのでストレートに聞いてみる。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました。あたし、半年前に独立してお店開いたんだけど・・・」
「ど?」
目に涙を溜め始め、泣きだした。
「半年たっても誰一人、買い物も受注もしてくれないのよ~!!」
地面をバシバシ叩く。
「だから魔族がどうとか選ぶほど余裕がないの~お金も底をつきそうだし!」
(開店から半年注文ないって、これヤバイやつだ・・)
「え~と、がんばってくださいね、では~」
ガシッ!
「いたたたた、はな、離して!」
「お願い、助けると思って!!」
いつの間にか尻尾を思いっきり掴んで離さない。
「いたたたたた、わか、わかった、見るだけよ、見るだけ」
あまりの痛さについつい言ってしまった。
(――適当に見たら隙を見て逃げよう)
渋々彼女の後に付いてく。何ヵ所曲がったか忘れたころで歩みを止めた。
「ジャーン!ここがあたしの店、ジャイアント・キリング!!」
自慢げにお店の正面に立って、両手を広げるよくあるアピールをする。
「へえ・・」
「何?その興味のなさそうな返事」
アキラ的に言うと塩対応らしい。
店名が・・まあ、いいけど、外観の第一印象はボロイ。ボロすぎ。商品だか材料だか分からない物が雑然と積み上げられていて、奥に炉が見えるけど、火が消えてる。鍛冶屋なのに、そもそも立地が悪すぎる。こんなところ余程の名工でない限りお客さん来ないのではと思いつつ、とりあえず壺に突っ込んであるショートソードを手に取ってみる。
「あれ?」
鋼鉄製っぽいけど軽い。とりあえず少し回してみる。ヒュン、ヒュン、と小気味よい音が鳴り使いやすい。横で彼女がドヤ顔してる。
「どうよ~いいでしょ?」
悪くないと思いつつ、突きをした瞬間、剣先がスポーンと柄から外れてすっ飛んで行った。
「どう?この機能!あたしって天才よねえ」
「いらないです。有難うございました、さようなら」
「えーなんで~、ちょっと待ってえ!」
ガシッ!
「いたたたた、尻尾やめてぇ」
「もう、こんな機能いらないわよ、こんな機能なら弓でも槍でもいいでしょ?」
「替え刃出来る」
「その分、軸の耐久が落ちて打撃で負けるわよ、それに替え刃何本持って行けと」
「む、それは盲点だった」
(この人本当に鍛冶屋なのかしら?)
「あたし、斧系はよく使うけど、剣とかはダメなんだよねえ」
「ええ?何で作ってるの?」
「使用してる人が多いから?」
「質問を質問で返さないで。もう少し実戦で研究してみた方がいいわよ、それとあなたの師匠に教えを乞うとか」
「それは無理、親父(師匠)に勘当されたからね」
両腕組んで胸を張る。
私は閉口した。
はあ、変なのに捕まっちゃったなと考えてたら、横から彼女が背中を指さす。
「ところであんたその荷物なに?」
今更ながら聞かれた。
「これは私が狩人をしていた頃に、発見した物や山賊を倒して頂戴した鎧とかよ」
そう言いながら風呂敷を開くと、ガラガラと腕や足、胸などの鎧が転がる。
「ほうほう、なるほどいいねえ、これを加工してあんたの鎧を作ろうって魂胆ね?よろしい任せたまえ」
「いやいや、依頼してないんだけど」
「ウルウルウル・・」
言ったとたん目に涙を溜めて訴えかけて、尻尾を掴む。
「わ、わかりました。腕はそこそこあるみたいだから・・ただしおかしな機能は要らないからね、絶対!」
「えー、攻撃を受けると魔法で爆発してダメージを相殺する鎧考えてたんだけどなあ」
「依頼はなかったことに」
「いえ、普通にやらせて頂きます」
工房に案内されて、中に入ると小型の炉に火が入って煙を上げていた。
(あ、こっちが本体なのね)
持ってきた鎧などをまとめて作業場に置きながら彼女が聞いてくる。
「一応、持ち込み有りのフル装備なんで、金貨20枚だけど大丈夫?」
「ここまで来たら絶対ちゃんとやってもらいますよ、全財産の8割なんだから」
といつも通り懐から袋を出して、残り少ない金貨20枚を渡す。
「ほーい、毎度~」
そう言いながら金貨を受け取ると、いそいそポケットに入れると一言。
「じゃあ、脱いで」
「は?」
「脱げ」
「・・・あのねえ、何で脱がなきゃいけないのよ」
呆れて言い返すと、
「あのねえ、専用鎧作るんだからサイズ測らなきゃだめでしょ」
呆れて言い返される。
(ごもっともですが、なぜ全裸?)
微妙に釈然としないが、仕方なく服を脱いでゆく。
縫製で使われる測り紐を持って体中を測るられる。思いのほか手つきがいやらしいのが気になるが。
「ふんふん、身長157センチ、で胸囲は・・乳でか!ついでに乳首でか!!」
ゴッ!
「ちゃんとやってください」
「はい~、っあれ?」
彼女は胸の下にある紋章をマジマジ見る、そして顔と紋章を交互に見てから一言。
「もしかして・・・お前アンジェ?」
「⁈・・・フェリア?」
何と言うか、やり取りに変な既視感があったけど、あまりに呆気ない再会である。
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