第13話 歓迎
「ふう~」
バフッ!、ちょっと固いベッドの上に寝転ぶ。岩の上や土の上とは違うベッドの感触。とても寝心地がいい。最早、王宮のベッドの感触などすでに記憶の彼方なので、現段階ではここは最高の場所になりつつある。
うつ伏せになりながら考える。フェリアとパルシェはどうしているだろう?ちゃんと転生して近くにいるのだろうか?そんな事を思いながら気が付くと眠ってしまっていた。
コンコン!扉を叩く音が聞こえる。
「ふぁい」
寝ぼけ声で返事すると、ハルトの声が聞こえる。
「おうアンジェ、晩飯だぜ、マダムがお前の歓迎会だとさ」
いつの間にか寝てたのか、窓の外は真っ暗で家々の明かりがポツポツみえる。
気怠い体を起こしてドアを開けるとハルトが迎えに来てた。
「今日はタダ飯・・っておい!!服、服!」
アンジェリカの姿を見た途端、後ろを向く。
「あ、ごめん」
下着だった、ベッドに入った時に胸がきついからリルルの服を脱いでしまって、そのまま寝てたようだ。
急いでマダムから貰った大きな服を頭からかぶって裾を絞って結ぶと急いでドアを開ける。
「おまたせ~」
「お、おう」
顔が赤い。昔はー・・・いけない、いけない何時までも子供じゃないんだから。
リビングに降りると、テーブルには豪勢な食事が用意されてる。
「わあ、これマダムが?」
「そうよ~アンジェちゃんの歓迎会ってとこね」
「いや~久々のマダムの晩飯だ」
ハルトが手をスリスリすると、隣で見ていたリルルがツッコみを入れる。
「あんたはオマケなんだから遠慮しなさいよ」
「わかってるって! うまっ!!」
早速口に揚げた魚のあんかけを頬張っている。
「さ、遠慮せずに」
マダムに促されるままに食事に手をつける。
「頂きます。・・・うん、美味しい!」
香草で長時間かけて蒸して作ったであろう鶏肉は非常においしかった。
「ジャンジャン食べてねえ」
と言いつつ、マダムは大ジョッキにワインをたっぷり入れて豪快に飲む。
「ぷはーっ!旨い!!」
本当にうまそうだ。
リルルを見ると、ナイフでステーキ肉をこれでもかというくらい細かく切り刻んでちまちま無心で食べている。何と言おうか、それぞれ性格が出ているようだ。
コップを取るとワインがなみなみ注がれていた。マダムを見ると親指立ててサムズアップしてる。まあ、歓迎会だからいいか、そう思いながらグイっと飲み干す。
そして夕餉は緩やかに楽し気に過ぎてゆく。
遠くで刻の鳥が鳴き声が聞こえる。朝だ。
朝焼けの光がリビングの窓から入ってくる。目を細めて周りを見るとマダムがあられもない姿で大いびきかきながらソファーで寝ている。その横で猫の様に丸くなってリルルも寝息を立てていた。よく騒音の中で眠れるなあと感心する。
それで私といえば、ハルトの頭を胸に抱えて寝てました。気絶してるのか、寝てるのか分からないけど、またやってしまった。
「――ごめんね」
今回はお酒が入ってました。
ハルトを起こさないように頭を優しく椅子にもたれさせ、毛布を掛けると静かに裏口から庭へと出ていく。庭角に井戸を見つけると桶を使って水をくみ上げ、近くにあったボウルに水を溜めて顔を洗い始めるが、水の冷たさに目が一気に覚める。
「冷たっ」
そして木の枝に掛けてある布で顔を拭いて、一息つく。
「少し体を動かさないと」
そんな事をいいながら、しばらく柔軟をしながら体を動かしてるとドアを開けてマダムがやってきた。
「あら、早いのね」
「あ、マダムおはようございます」
(早い、もうバッチリ化粧を直してある)
「おはよう、よく眠れた?ってあんな所で雑魚寝だからそんなに眠れないわよね」
「いえ、夕方少し寝ていたのとお酒が入っていたんで、そうでもないですよ」
腕をグイグイ左右に回しながら答える。
「そお?それならいいんだけど」
「あ、マダム、ちょっとお聞きしたい事があるんですが?」
昨日から聞こうと思っていた事を聞いてみる。
「鎧の受注とか修理が出来るお店ってないですか?」
マダムは少し考えてから手をポンと打つ
「ああ、冒険者用のね?この街はドワーフ職人が多いから商業ギルドの裏には沢山鍛冶屋があるわよ」
ただねえ、と付け加える
「アンジェちゃんは何か魔族として常識が欠けてるから忠告しておくけど、ドワーフは魔族嫌いの職人が多いから、行くならその点を気を着けなさい」
「あ、はい」
そういえばそうだった。ロベルタ王国と魔族のエルディオ帝国の小競り合いはエスペローゼでも貿易に影響してお父様が頭を抱えてたのを思い出した。
「アンジェちゃん、着替えたら朝食にいらっしゃい」
「わかりました」
返事をしながらリビングに戻るとリルルはソファーで寝ているが、ハルトはもう居なかった。部屋にもどったのかな?
私も自分の部屋に戻り、マダムの用意した普通の服に着替え、リビングに戻ると、鼻をくすぐる香ばしい香りがしてきた。
マダムの作った美味しい朝食に舌鼓を打った後、一度、部屋に戻り背中に持ってきた大荷物を背負い、例のドワーフがやってると言う鍛冶屋街に出かける事にした。
リビングを通りかかると、リルルが起きて眠そうな顔で朝食を取っていた。
「おはよう、ハルト知らない?」
「んー、ハルト?なんか、パーティーの人が来て二人でどこか行ったよ」
さして興味もなさそうに答えてくれる。
ハルトには街の案内がてらに付いて来てもらおうかと思っていたけど、ギルドの仕事ならしかたない。取り合えず、街を散策しながら商業ギルドの裏手に向けて歩き始めた。
冒険者ギルドの裏手から噴水のある広場に出ると、そのまま対面の商業ギルドの裏通りに抜けていく。銀髪の角付き女が大きな風呂敷抱えて歩く姿は余程奇異に映るのか、ジロジロと好機の目で見られたが、気にせず裏手通りに入って行く。
「おやおや、こんなところで魔族の娘が変な恰好で歩いてる」
商人ギルドの前に止まる馬車の窓から若手の商人レオン・マルセイユはせかせか歩く小さな娘の姿を眺めていた。
「ほう、美形だな」
独り言のように呟くと、御者が振り向いて声を掛ける。
「旦那様、荷物の搬入が終わったそうです」
「ああ、やってくれ」
答えると同時にピシャリ!と馬に鞭が入り、ガタガタ車が動き出す。
「さて、困ったな最近は古代国の遺物が少なくて。もう少し腕のいいのが要れば良いのだが・・・」
ゆっくりと流れる景色の中に冒険者ギルドが目に入り、苦々しそうに見つめる。
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