第11話 斡旋
城門を越えるとすぐ正面に大通りがあり、大勢の人々が闊歩している。ハルトの後について歩き、左右の賑やかなお店をキョロキョロ見ながらついていく。完全にお上りさん状態だ。
ただ、大荷物を持って歩く毛玉の様な私は周りから好機の目で見られていたが、ハルトは特に気にする様子もなく、通りをどんどん先に進む。中央に噴水のある広場に着くと中央の大きな建物を指を差し言う。
「広場の正面はこの街の庁舎、左が商業ギルドで右がこれから入る冒険者ギルドだ」
「まあ、見れば何となくわかるだろ、荷下ろしが多いのが商業、薄汚ねえのが出入りしてるのが冒険って事だ」
「はあ、なるほど」
私もその薄汚いの仲間かなとか思いつつ、ハルトに続いてギルドの建物に入っていく。中は、剣士、魔導士、盗賊など様々な恰好をした冒険者達がひしめき合っていた。
「アンジェ、お前登録するなら左奥の受付にマリアって娘が居るから、手続きしてこいよ。これ持って、俺の紹介って言っとけばいいから」
そう言いながら私に小さな紙を渡し、ハルトは取引所と書かれた方に歩いて行く。
「よう、ハルト!お前死んだんじゃないのかよ?」
知り合いらしき髭面の冒険者に声を掛けられているようだ。
「うるせーよ、そいつはこいつを見てから言いな」
背中の荷物をパンパン叩いて自慢げにドヤ顔する。
「マジかよ、アースグリズリーを仕留めたのか、スゲーな」
「まあ、共同戦線って事かな?」
私の方に親指をクイクイとしてみせる。
「ハルト、お前いつから毛玉とパーティー組んだんだ」
「やかましいわ」
何人かと談笑している姿を見てると、昔の面影ばかり追っている自分が恥ずかしくなった。
ふと、ハルトを奥の席から忌々しそうに見ている男がいるのを見つけた。
(ん?バーグとか言うハルトの仲間だったような・・・)
「次の方どうぞ!」
私は声をかけられ、慌てて窓口に向かう。
目の前の栗色の髪の若い女性が座ってる。彼女がたしかマリアって言ってたかな?
「えーと、ハルトさんの紹介あっての、冒険者登録ですね。登録料として銀貨5枚を頂きます」
「はい」
内ポケットの袋から銀貨5枚差し出す。
「はい、確かに」
羽ペンで書類に必要事項を書き込んでから、こちらにペンと書類を回す。
「えーと、書くのはお名前と出身地、住んでる場所ですね」
「それと、冒険者タグを作るので・・・血を一滴いただきます」
事務的な声がこわばる。あ、気が付いたかな?
「・・えっと、魔族さんなんですね」
なるべく怖がられないように、明るく答える。
「はい、やっぱり魔族って珍しいですよねえ、冒険者って少ないですか?」
少し安心したのか普通に返答してくれる。
「あ、はい、上級で数名登録がありますが、此処にはほとんどいません」
「まあ、私は魔族の国で生まれたわけではないですから、感覚がずれてるんでしょうねえ、へへへ」
頭を掻きながらおどける。
「いえいえ、あ、フェルベール?エルフの村出身なんですか?」
名前を見て不思議そうに問いかける。
「ええ、まあ、いろいろありましてそこで育ったんですよ」
言葉を濁しながら答えると、何か哀れみのような顔をされてしまった。
「苦労したんですね、まあ、冒険者っていうのは色々な事情を抱えてる人はいっぱいいますから、アンジェリカさんもこれから頑張ってください!」
何か勘違いされた挙句に応援されてしまって、ちょっと心苦しい。
マリアは胸元のポケットに挟んであった、眼鏡を掛けて説明を始める。
「えっと、簡単に説明しますね。冒険者は経験と実績によって等級が上がっていきます。ランクは新人のF級クラスから最高のA級クラスまであります。正直、A級クラスになってくると、引退をしてしまったり、国や貴族などが引き抜いてしまって、自由に動ける冒険者はB級クラスの方々が実質トップですね。」
「それと、冒険者は基本どのような方でもF級から開始します。剣術がすごいとか魔法がすごいとかの理由で上位クラスに飛び級する事はありません。実績が第一です。それと、一年以上の長期間、未実績だと登録抹消になりますのでお気をつけて」
「次に昇格ですが、ギルドで斡旋されているお仕事や、未開拓ダンジョンの地図の提供、遺跡の発見、遺物の提供などの実績が定期的に評価されて、昇格に繋がります」
「なるほど、歴史的遺物発見ってワクワクしますね」
冒険に憧れてた分、これは楽しみ。
「あー、水を差すよう申し訳ないけど、遺物発見とかは時間が掛かる上、莫大な経費が必要だったりするんで、興味ある貴族の資金援助などがないと厳しいかと思います」
マリアが申し訳なさそうに言う。
「地道に実績を重ねて名声上げないと厳しそうですね」
「はい~」
「あ、そうそう言い忘れてた。実はA級クラスの上にS級クラスがあるんです」
「え?」
「アシタールの冒険者ギルド限定なんですが、この国の国王が追加したんです。ただ、他の国では通用しないし、そもそもそこまで上がれる人はいないと思います」
「はあ・・・」
(アキラ君、キミってひとは)
思い出し笑いをして、マリアが不思議そうな様子で見ていた。
「さて、最後の工程ですね。住所は・・決まりましたら後でお教えください、それと、」
マリアが机の下から妙な魔法器具を取り出してきた。上に血を入れるらしいガラスの筒、その先に針がぶら下がってる。その下にテーブルついており、そこに小さな金属の板を置く。
「はい、このガラス筒に一滴血を落としてください」
小型なナイフを手渡された。
ナイフで左の人差し指の先を軽く切るとジワっと血が玉になって出てくる。それをガラス筒に落とすと、ぶら下がった針が光りながら金属板に文字を掘っていく。
「はぇ~」
思わず関心して眺める。
そして、そうこうしている内にタグが完成した。完成したタグに手慣れた感じに紐を通していくと先の部分を結び、手渡してくれる。
「はい、どうぞ、まずはFクラスからです」
「有難うございます」
お礼をと言いつつ、早速なくさないように首にかける。
「これで一通りの手続きは終わりです。失くした場合は再発行に銀貨7枚掛かりますのでお気をつけて」
「では、改めて商業都市レバンド冒険者ギルドへようこそ!」
マリアの差し出した手を握り握手する。
「よろしくお願いします」
私は改めて首にかけたタグをみて、念願の冒険者になれた事を実感した。
「おう、登録終わったようだな、次は宿だな」
いつの間にかハルトが隣にやって来ていた。
「宿?」
「まあ、この街を拠点にするか、他の街に行くか決めるにしても泊るところがないと始まらないだろ?」
確かにそうだ、縁の力でハルトに会えた事を考えると、フェリア達も近くに居るのかもしれない。
マリアにお別れしてギルドを出ると、ハルトの案内のまま裏手に回って細い道を上がっていく
「俺が拠点代わりに使ってるアパートメントに空き部屋があるからとりあえずそこに行こうぜ。家賃も安いし、大家は癖があるが悪い奴じゃない」
なんだろう?やたら気前がいい。というか、少し強引だ。怪しいなあと思いつつ付いて行くと目の前にピンク色の屋根の二階立て、いや坂道の途中にあるから三階建ての建物が見えてくる。
「――何?この家」
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