第8話 転生

 フードの神様が三人を見据えて話す。

「さて、これから生まれ変わってもらうのだが、少し縁をいじらせてもらった」

「え、何かすごい魔法が使えるとかスッゴイ財宝くれるとか?」

フェリアが欲丸出しで聞き返す。


「――ごほん!財宝や魔法ではない」

「幼少時の死亡率を下げる為に、多少ほかの者に比べて健康体でそれなりの生活が出来るような家に生れ落ちる予定だ」


「確かに、子供の死亡率は高いですし、元気な体であれば成長に不安を抱える事がなさそうですね」

 実際、私には弟がいたのですが、わずか三日で亡くなってしまった。そのショックで母上も若くして亡くなってしまったのです。その影響で私はハル坊を異様に可愛がってザイド将軍には、よく注意されてましたね。


「う~ん、残念」

本当に残念そうだ。


 その後、フードの神様には召喚勇者の事や女神イシュラの処遇など疑問に思った事を聞いた。答えてくれない部分も多かったですが、ある程度解消した。


「――これ以降は、わしはお主達と話すことも、手を貸すこともできぬ」

「さて、始めるぞ」

「「はい!」」

三人返事をした後、フードの神様を見つめる。


やがて、クリスタルの世界は薄っすらと暗くなり、暗転する。



                ◆ ◆ ◆


――チチッチッチ


 背の高い木が生い茂る森の中に小鳥の囀りさえずり響く。


 木々の間に鎮座する廃墟の上でアンジェリカが横になって寝息を立てていた。

不意に小さな虫が鼻の上をかすめ、クシュン!とクシャミが小鳥の囀りをかき消す。


「ん~、眩しい」

そう言いながら腕を伸ばし、顔に掛かる木漏れ日の光を片目を瞑りながら、手で覆う。

「あー、いけない、いけない、寝てたみたい」

頭を掻きながら上半身を起こすと同時に、ズシリと大きな胸の重さが肩にかかる。忌々しそうに自分の胸の谷間を眺めてから大あくびをする。

 よろよろと廃墟の上に立つと着崩れたボロボロの毛皮の紐を直し、毛布代わりに敷いていたマントを着込んだ。


 ボサボサの灰色髪を腰まで伸ばし、相変わらずの太眉、ちょい釣り目の大きな瞳。以前と違うのは瞳が金色になった事と、魔族よろしく頭の左右に角とお尻に尻尾が生えた事、そしてなにより胸がやたら大きくなってしまった事。


 転生直前、フードの神様が最後に言った言葉が思い浮かぶ。

「大きな力を与えてやるわけには行かないが、おぬし等のささやかな望みは叶えてやろう」


 迂闊だった。アキラと対峙していた時、胸の小ささを言われたのを心のどこかで気にしていたのだ。久々に思い出してイラっとする。


「ふぅ、今更嘆いていてもしょうがない、狩りを続けよう」

独り言を言いつつ背中の矢筒の本数を数え、足元の弓を取ろうと屈んだ時、森の空気が変わった。


 魔物がうろついているようだ。


 森の奥から罵声だか、怒号だかが聞こえる。

「おい、バーグ!何で逃げる!!」

「ふざけんな!アースグリズリーなんて相手に出来るか!お前こそ現実を見ろ!!」

 二人の剣士らしい青年が言い争っている。周りには仲間が4人ほどおろおろしているのが見えた。


「「マリエラ!スワンプ(沼)フラッシュ(閃光)だ!!」」

二人同時に、後ろにいた魔導士の女の子に同時に叫ぶ。しかも別々の魔法を要求している。

マリエラと呼ばれた娘はあわあわしながら最終的にはバーグご注文のフラッシュをアースグリズリーに掛けた。


アースグリズリーは突然の閃光で目にダメージを受け、野太い鉤爪をブンブン振り回してる。


バーグは叫ぶ

「今だ!全員麓まで撤退だ!!」

その言葉を聞いた途端、後方の四人も堰を切ったように全力で逃げ出した。


「おい!それだけじゃだめだ!」

残った剣士が叫ぶ。

 そうだ、アースグリズリーは嗅覚を封じないと狙った獲物は何処までも追いかける厄介な魔物だ。すでに逃げる集団の方に首を向けていた。

「くそっ!」

悪態突きながら辺りに落ちていた石を拾って魔物に投げつける。


「おら!こっちだ熊野郎!!」

バシッ!っと後頭部に当たると徐々に回復したのかアースグリズリーが剣士の方に向きなおす。


 アンジェリカは一部始終を木の上で眺めていたが、彼の行動は見ていて不快だった。そう、まるで昔の自分の見ているようで。


 剣を構えた青年が叫ぶ

「エンチャントソード!」

そう叫ぶと、彼の構えた剣に炎が絡み、赤いファイヤーソードに変貌する。


 なるほど、魔法剣ですか、それにしても魔法技を一々叫ぶのは流行りなのだろうか?相手が魔物だったからよかったものを。そう思いながら剣で爪を受けようとしてる彼の行為に慌てて木から飛び降り、駆け出す。


「グルルルルゥ」

そうこうしているうちにアースグリズリーは剣士めがけて突進して、目標に向けて鉤爪を振り上げる。


「「ドカッ!!」」

アンジェリカは、ギリギリのところで彼を蹴り飛ばすと同時に鉤爪が地面を抉った。


「いってぇ⁈」

突然横合いから現れた灰色の毛玉に腰を蹴られて悶絶する。


「あなたバカですか?勇気と蛮勇は別物ですよ?」

そう言いながら弓を絞り、地面に刺さった爪を抜こうと悶えてるアースグリズリーの目を狙って放つと綺麗にトスッ!っと右目に刺さる。


「グギャアアア!!」

矢の刺さった目を抑えながらその場で片腕を振り回し、暴れている。


「なんなんだ、あんた?」

突然蹴られた挙句、説教食らう。文句を言おうにもフードの下から見える金色の目に威圧されてしまった。


「沼を使って足を止めるというあなたの最初の案はよい作戦だと思いますので、それを別の形で有効に実行しましょう」

「左右から挟んで、右足集中で行きますので左から回り込んでください」


「お、おう」

青年は何が何だかわからないうちに仕切られて、流される。


 アースグリズリーを中心に、左右にわかれて走る。アンジェリカは右から回り込み、無傷の左目を弓で狙う振りをすると、注意がこちらに向いたその時、青年に合図する。


「でああああー!!!」

チャンスだった。力の限りファイヤーソードを足の健を切りつける。


 が、途中で刃が肉に引っかかり、手がすっぽ抜けてしまったのだ。

すぐさま剣を掴もうとしたが、回り込んで来たアンジェリカに襟首を捕まれ地面に叩きつけられた。

「な、なにしやが・・」

抗議の声を上げようとした瞬間、アースグリズリーの鉤爪が青年の頭上を空を切った。

「借ります」

ひとこと言うと、腰に差していた短剣をひょいっと抜き取ると挑発しながら反対側に駆けていく。アースグリズリーは怒り狂って右足を引き摺りながら追いかけていく。

「はっ!おい、ちょっとその短剣はだめだ!!」

慌てて声を掛けるが、すでに走り出して行ってしまった。

「それは・・・」



「さて、そろそろケリをつけましょうか」

片目と右足から血を流し、仁王立ちするアースグリズリーに対して、短剣を構えて対峙するアンジェリカ。ふと手に持っている短剣に目が行く。


「あれ?この短剣って」

――紛れもなく自分の短剣だった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る