第7話 封印

「あ、いえ、なぜ私なのでしょう?」

慌てて取り繕う。


「ふむ、お主が王女の時より重責に心を砕いていた事は知っておる。またそれを疎かに出来ない真面目過ぎる自分が嫌いな事も」

「!」

「だが、今回の件を堅実に遂行するに当たってはお主しかおらんのも事実。今まで王族という立場上、一人で責任を負っていたが今回はまあ、多少癖があるが仲間もいる」


「わ、私は・・」


 正直迷う、王女の時は本当はもうすべてを投げ出して自由に生きたいと何度願ったか。でも、お父様やザイド将軍、城のたくさんの人達の笑顔を見ていると出来るはずもなかった。だけど・・。


「一つ聞いてよろしいでしょうか?」

「答えられることなら」

「お父様はどうなりました?」

「君の父、オスロ・エスペローゼは君より早くここに来たが、領民の安否を確認すると満足して魂の安息に入ったよ」

「お父様らしい・・」


 そうそう、普段は伝言を受け付けてないが特別だ。

「もし、間違って娘が此処に来てしまったら、褒めてやってくれと」


「そうですか、そう言っておられましたか・・・」

ああ、お父様。アンジェリカはあなたの娘で本当によかったと思います。


 涙を流す体はないですが、心が熱い。とても心地よい熱さです。


「――わかりました、引き受けましょう、ここで眠る魂がまた広い大陸にもどれるように」

フードの神様は満足したように頷く。


「ふー、あたしも消え去るのは嫌だし協力する」

「アンジェ、あんた一人で背負いこむ必要ないぜ、一蓮托生だ」

フェリアがそう言い放つとパルシェもおずおずと答える。

「わ、わたしも消えるのはイヤ、王女様、お供します」

「フェリア、パルシェ、よろしくね。それから私はもう王女ではないので禁句です」

何というか、今までの人生ではなかった対等の仲間というのは照れ臭い。


「ところで残りの二人はどなたです?」

「あー、あたしも気になってた」


「二人とも生存しておる。一人は獣人族のラクターシャ、そしてもう一人はエルフ族のシャーリー」

「シャーリー・・・」

勇者アキラの冒険仲間にして、アンジェリカを討った張本人。


「君にとっては複雑な気持ちになると思うが・・・」

「大丈夫です。生まれ変わってまで復讐なんてみっともない真似はしませんよ」

「問題は相手の出方ですね」


 シャーリーとはアキラが冒険者修行していた時、すでに仲間として同行していたのを覚えてる。ただ何故だか、初めて会った時も最後の時も彼女に宿っていたものは強い嫉妬の念だと感じる。

「難問ですね」

自分に言い聞かせるように呟く。


「ちょっと、ちょっと神様?もしかして五人の巫女って、種族バラバラ?」

フェリアが何気に疑問を口にする。


「そうだ、アンジェリカ君は人族、パルシェ君が魔族、そして君がドワーフ族だ」

フェリアの種族を聞いて変に納得してしまった。


「これは大陸の代表的な五種族で行われる儀式だ」

「ん?という事は生まれ変わっても今と同じになるわけだ」

「今回は、そういう・・」

とフードの神様が言いかけた時、パルシェが叫んだ。


「あの、わたしイヤです!!もう・・魔族に戻りたくない・・・」

彼女の炎が弱々しくなる。

「あのなあ、さっきアンジェと一緒に封印をやるって言ったばっかりだろ?」

フェリアが呆れてぼやく。

「だったら変わってください!わたしがどんな仕打ちを受けて、どんな死に方をしたか」

「はぁ?無茶言うなよそんな事出来るわけ・・」


「一応できるよ」

フードの神様の一言でフェリアが固まる。


「要は封印の儀式の際、紋章をもっている五種族が揃ってれば問題ないんだが」

「いやぁ、まあ、そのなんだ、あたしも魔族はちょっと遠慮かな」

さっきの勢いは何処へやら。


「じゃあ、私が変りましょうか?」

アンジェリカの一言にフェリアとパルシェが閉口する。


「! 阿呆か!!そんな大事な事をそんな手軽に決めるんじゃねえ!!!」

フェリアが怒鳴る。


「す、す、すみません!わたし、我が儘言ってました、聞かなかった事にしてください」

パルシェが慌てて取り消そうとする。


「私は、王族じゃなかったら冒険者になって色々な遺跡を巡ったり、危険な魔物の住む洞窟を潜り抜けてお宝を発見したり、そんな事やってみたかったの。だから、何であろうとやりたい事に変わりはないから種族は関係ないのよ」


(この時は魔族である事への弊害をあまり深く考えていなかったのは、私自身が無知であったが故の行動だったのかもしれないが、それでもよかったと思っている)


「あのなあ、だからと言って・・はぁ、今日初めて会って話したばっかりだが、損な性格してるな」

フェリアが呆れて言う。


「勇者に真面目系堅物って言われてました」

「褒められてねえよ!」


「王女様、すみません、すみません、わたしなんかの為に」

炎がペコペコしてる。

「それ(王女)は禁句、アンジェでいいわ、そう呼んでくれなければ今の話はなし」

「は、はい・・あ、アンジェ・・さま」

様は要らないのに、と心の中で苦笑する。

三つの炎が身を寄せ合って談笑してる姿は何とも滑稽な姿であったろう。


「というわけで、そろそろお願いします」


「うむ。時の流れの確認だが、それぞれが別々で転生を果たす。その後四年で記憶の封印を解き、成人した15歳で縁が発動する。それぞれが縁の力により出会うであろう」

 4歳から15歳の間に出来る限り、様々な力をつける事が肝要ですね。


「それからおぬし等に言っておく事がある。封印に関しては必要な相手以外は他言無用だ」

「なぜ?世界の危機なんだから協力してくれる人や国があれば楽なんじゃない?」

フェリアが当然の疑問として聞く。


「それは、魔神の残照が封印阻止の為に動きを強めるからじゃ」

「いつの時代も滅びを求めるカルト的な連中がいるということですね」


「うむ、それもあるが魔神自身も自分の欠片を残してる可能性も考慮しての事だ」

「それと、転生についてだが、おぬしら三人それぞれと係りのあった者たちに自分の正体を晒す事もなるべく避けるように」


「ま、そりゃそうだ。変人扱いされるぞ」

「・・会いたくもない」


私は少し考えてから口にした。

「あの、勇者アキラには出来れば会って、話をしようと思っています」


「お主的には会いたくない相手だと思ったが、よいのか?」

「魔神の破片というのが気になりますし、もし私達に手に負えない時は唯一頼れる相手だと思っています」


「え?アンジェの国を滅ぼしたやつだろ?協力してくれんのか?」

フェリアの言う事ももっともだ。保証はない。

「わかりませんが折角手に入れた力、手放したくもないでしょうに」

と、最もらしい事を言って誤魔化す。

「たしかにねえ」


本当は自分自身が彼と、もう一度話をしてみたいと思っていた。







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