第一章 転生者の集い 

第6話 輪廻

―――暗い、暗い。


 おかしい、手を伸ばして周りを確認しようと思ってるのに。

意識の中では手で回りを探ってる行為をしているのだが、先ほどからその感覚がないのだ。

少し見上げると、四角い光がみえる。出口か何かか?


(此処に居てもしょうがない、行ってみよう)


 徐々に光が近くなる。歩いてる感覚はないのだが、意識だけはそちらに近づいて行く。

 光に近づくにつれ、周りが青紫のクリスタルのような階段が見えてくるが、相変わらず足を踏みしめて登っている感覚がない。


(やっと、ついた)

前進しているのか、上っているのか、意識だけで動いていたのでやたら遠くに感じた。


 四角い場所にたどり着くと、青い景色がパァっと広がり、無限に続くかに見える半透明な床が広がるホールのような場所に出た。驚いて周りを見渡すと先ほど上がってきた四角い出口は消えて、青紫のクリスタルの塔や山?っぽい物が遠方に見える。そして何気に空を見上げると城の監視塔の天辺で見た星空よりも鮮明な星空が広がっていた。


(なんて、美しい場所、こんなの見たことがない)


(そうか、たぶん此処が魂の安息の地インファリースか)

子供のころに読んだおとぎ話に出てくる死者の国。でも、思っていた世界とはだいぶ違うようだ。もっと楽園のような所だと考えてたけど、此処は静かで何もない。

床に映った自分の姿はアンジェリカ・エスペローゼの姿ではなく何か炎の揺らめきだけが映っている。これが魂というものなのか、わからない。



 アンジェリカは一人、ぼーっと遠くを眺めていた。そして、どれだけ時が経ったのか突然、後ろから声をかけられた。


「ちょっと!あんた何時までぼーっとしてるんだい?こっちはだいぶ待ってるんだけど?」

「⁈――誰?」

 振り向くと、そこにはいつの間にかそこにはクリスタルで出来たテーブルが一つ、手前に三つの椅子と対面に一つの椅子がある。


 意識を向けると徐々に見えてくる。三つの椅子の二つには揺らめく青白い炎が乗っており、対面の椅子にはフードを深く被り、口元しか見えない老人らしき人物。


 真ん中の席にいる炎が、揺れながら言う。

「あんたも早く空いてる席に座りな、もっとも座るというより乗ってるだけだけどねぇ」

 奥席の炎は無言だが、見た目炎で表情も前後左右もわからないのに、なんとなくだが、こちらをジッと見られてる気がする。


 取りあえず、言われるがままに席に着く。真ん中の彼女?が言う通り、乗っているだけだが。


 対面のフード姿の老人が話始める。

「ようこそ、アンジェリカ・エスペローゼ君」

名前を聞くと、真ん中の彼女?が大物じゃんっと感心する。私を知っているようだ。


「さて、三人揃った所で始めようかね」


「最初にワシが何者か紹介しておこうかね」

「あーこのオジサンうちらの世界の神様なんだって」

「――ごほん!」

「あ、すみません。どうぞ、どうぞお話しくださいませ~」

 どうも彼女はお調子者のようだが、おかげで妙な緊張がなくなった気がする。


「フェリア君が言った神様という概念は君たちの世界のものなので、正確ではないが、今はそれでいい」

(ん?神様って女神イシュラだったような・・・)


「本来、死んだ者の魂というものは百年~二百年、種族によってはもっと長くここに留まり、魂の安息と浄化が行われ、次の新たなる生命に引き継がれる、それが君たちの世界で言われる輪廻転生に繋がるのだ」

「なるほど、それらの魂はかつて何者であったかは関係なしに生まれ変わると」

フードの神様は小さく頷き、言葉を続ける。


「何千、何万年このサイクルは変わらないはずだったが、今回は残念ながら例外が発生した」

「君たちだ」

指をさされ、私が口を開く前にフェリアが口にする。


「え?あたしそんなに悪い事はして―――ないと思う」

ちょっと彼女の言葉の間が気になったが、私自身も世界の輪廻を崩すような行いをした覚えがない。

「私にはそんな大それた能力ないと思います」

取り合えず否定する。

「わ、わたしもしてません!」

奥の炎が初めてしゃべった。以外に可愛い声だ。


「いやいや、君たち自身が何かをしでかしたわけではない」

「君たちが次元の亀裂を封印する前に殺されてしまったことが問題なのだ」


「封印?どういう事でしょうか?」

何か重要な言葉が出てきて、思わず聞き返す。


「実は君たち三人、いや正確には五人は勇者が魔神を倒した後、次元の亀裂を封印するための術を行使する巫女に当たる者達なのだよ」


「え?私は初耳なんですが??」

「あたしそんな重要人物だったの?」

「わたしも知りませんでした」

三者三葉、驚愕の事実だった。


「君たちの体のどこかに封印の紋章があるのを覚えているかね?」

そう言われれば、妙な印があったのを思い出す。


「胸の下に」

「あたし、右のお尻にあったなあ」

「わ、わたしは肩に」

私もそうだが彼女達にも思い当たるものがあるらしい。


「それが封印の巫女の紋章だよ。本来その紋がないと完全な封印は出来ないんだ」

「そもそも、神託を授かり縁によって勇者の元に5人が集い魔神を倒し、封印の儀式をするはずであった。――五百年前同様に」

「だが、今回この重要な仕事を我が弟子、イシュラに任せていたのだが信託はおろか、縁も結び付けず、今生の勇者に必要以上の力を与えてしまったのだ」


「――そのえにしというものは何ですが?」

疑問を口にする。

「広い大陸で、人と人が出会って結び付く事が難しい場合もある。本来集まらなくてはならない者たち同士の結び付きを強くする為のものなのだよ」


(出会いの強制力というのはある意味怖いものですね)

「大丈夫、おいそれ使う事はないよ」

ふと思ったことが読まれた。さすが神様というところでしょうか。


「それにしても、別の意味でしでかしてしまってますな、ハハハ」

フェリアがツッコみを入れる。


「――ごほん!」

「とまあ、経緯でなんとなくわかったと思うが、改めて言うと次元の亀裂が不安定な形で封印してあるので、君達に再度正式な儀式を行い封印をしてほしいというわけだ」

「ちなみに、それを拒否するとどうなりますでしょうか?」

何気に聞いてみた。


「うむ、次元の亀裂は再び開き、再び復活した魔神が世界を襲うだろう。現時点の勇者の力では倒すことがほぼ不可能だ。彼は力を無駄に使いすぎた」

「そして混沌が溢れ世界は無に帰す。そして幾多の魂は帰る場所を失い消えるだけであろう」


「そ、それでは神様自身が封印する方がいいのでは?」

奥の娘が慌てて言う。


(――たぶん出来るなら私達に頼らないよ)


「パルシェ君、残念ながらわしらは直接干渉をする事は禁忌タブーなのだよ」

「そ、そうなんですか・・」


「そう気落ちする事もない、すでに魔神は倒されておるのでな、後は五人集めて封印の儀式をするだけだ」

「という事でアンジェリカ君、君が中心となってこの任務を全うしてほしい」


「・・・・ふぇ?」

思わず変な声がでてしまった。

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