第4話 対策
ザイド将軍はすぐさま左の二階バルコニーにいる弓兵に合図を送ると、十五人ほどいる兵士から煙の中に佇むアキラにクロスボウの矢が同時に放たれる。
だが、一閃、体に届く前に十五本の矢がカラカラと床の煙に消え落ちる。
「そうだな、たしかに間接的だろうと俺がアンジェの親父さんを殺したようなものだ、その怒り、甘んじて受けよう」
珍しく神妙な表情で語るが、続く言葉がこれだ。
「だけど、君が負けたら俺のところに来てもらうからね?」
――あきれた男だ。怒りを通り越して薄笑いも出てくる。しかし、弾道も見ずに十五本の矢を剣で叩き落した能力は目の前で披露されると恐るべき力です。
「じゃあ、いくよ~」
腰の紅い剣をスラリと抜くと呟く。
「縮地!」
縮地――獣人が使う、相手との距離を急速に詰めたりする為に足にかける魔法技。
一気に勝負をつけるつもりだったのだろう。冷静であれば簡単に気が付くはずだった、煙がずっと足元に漂うはずはないのだという事を。
アンジェリカに急速に迫り、構える盾を弾き飛ばそうと剣を後ろ手に構えた瞬間、「?!」誰かに足の脛を捕まれたと思ったのも束の間、体制を崩し右に大きく旋回して盛大に転び、轟音と共に柱に体当たりしてしまった。
「ぐは!」
防御し損ねてモロにダメージをくらい、ヨロヨロと立ち上がろうとするアキラに対して間髪いれず、ザイド将軍が右の二階にいる魔法隊十人に指示すると一斉に火球が打ち込まれる。爆発が起き、黒煙を上げ周囲に柱などの破片がバラバラと飛び散る。
だが、爆炎の中に第二射が撃ち込まれると今度はその火球が渦を巻いて煙の中央に吸い込まれてしまった。
「⁈」
魔法隊の面々が目を見張る。
「いてて」
後頭部を摩りながら立ち上がるが、全くの無傷。
「いやあ、参った。まさかこんな安っぽい子供の罠に引っかかるなんて」
すでに床をカモフラージュしていた煙は消え、柱の根元に張られたロープを眺めながらマントや鎧の砂埃を払い、アキラは二階に並ぶ魔法隊を見る。
「っ!魔法隊、弓隊!!下がりなさい!!」
――遅かった。
「返すよ~、リフレクトスラッシュ!」
と軽く言いながら紅い剣を振るうと第二射で放たれた火球が魔法隊のいる二階に叩きつけられ爆発すると、壁と共に城外に吹き飛んだ。さらに反対側の弓隊の方にも返す刀で振るうと同じように爆発が起き、弓隊のいた場所に大穴が空く。
「くっ!なんてことだ」
ザイド将軍も兵士たちも崩れて大穴の開いた左右の壁を見て愕然とする。
「それが噂の火竜の心臓で鍛えられたフレイムハートソードですか」
動揺を極力抑えて聞く。実物を見るのは初めてだけど、魔法吸収の他に吸収した魔法を倍加して任意で反射出来るなんて想像以上の力だ。
「いいでしょ?装備すると身体能力が十倍に跳ね上がる!SSS級冒険者の俺にぴったりなチート剣!欲しいでしょ?」
そう言いながら紅い剣を構えポーズで見せびらかす。
「・・・いえ、特には」
「な⁉何その塩対応~、嫁さん達は欲しがってくれるのに~」
がっくりしているアキラを横目に、隣のザイド将軍が小声で聞いてくる。
「殿下、SSSというのは何ですが?冒険者ギルドでは実績の積み重ねによる等級制だったはずでSなど聞いたことがないのですが?」
「たぶん、彼が元居た世界ではそういうランク制のギルドがあるのでしょう」
「しかし、身体能力強化とは面倒です。どう対応すればいいか」
「現状で勝ち目はほぼないですが、魔法や技を避ける手段はあります。条件付きですが」
そう言いながら耳打ちをする。それを聞いて頷くとザイド将軍は近くにいた兵達に伝えていく。
その様子を見ていたアキラは待ちくたびれた感じに言う。
「作戦会議はすんだ?じゃあ、行くよ!」
刹那、アンジェリカ自身が真正面から剣で切りかかる。さらにザイド将軍が続く。
「おお!君から来るなんて」
そう言いながら手を広げる。
「ふっ!」
袈裟懸けに振り下ろされる剣を左足を下げ体を斜めに軽くかわすと、がら空きのアンジェリカの背中に剣の柄を打ち下ろそうとした瞬間、後ろに控えていたザイド将軍の大剣が真っ直ぐにアキラの顔を狙って突いてくる。しかし、入ったと思った瞬間、残像を残しながら体を反らしてかわす。
その間に、アンジェリカは体をひねりガントレットの裏に忍ばせていた投げナイフを左手で二本同時にアキラに投げつけた。
「シールド!」
六角形の透明な盾が現れ、カキン!っと金属音を鳴らし弾かれる。
アキラがこちらを見てドヤ顔しようとした矢先、反対方向から二人の兵士がアンジェリカ達と同じ攻撃をしかけてくる。一階にいた残存の兵士四十人がさらに別方向からも矢継ぎ早に襲い掛かる。
「なっ!てめーら汚ねーぞ!!」
「波状攻撃が作戦ってわけね、くっそうぜぇ~」
次から次へと襲い来る剣を弾き、次に来る槍や長剣をかわす行為を繰り返しながら不平を口にする。
「SSS級で十倍でしたっけ?楽勝でしょ?」
波状攻撃に交じりながら、わざと煽る。
正直、魔神を倒し、竜を倒し、国を滅ぼす力を持つ男がこの程度の攻撃で参るとは思えない。私を屈服させて手に入れる目的がある以上、手加減しているのだろう。だからこそ、それを最大限に利用させてもらうしかない。
「あーうっせー!ダークジャベリン!」
業を煮やしたアキラは範囲攻撃魔法を放つ。
ダークジャベリン――魔族が使う、全方向に二十四本の黒い槍を飛ばす魔法技
叫んだ瞬間、私は手を上げ合図を送ると、兵士たちは一斉に散り、柱や瓦礫に身を隠すと同時に黒い短い槍が飛び出した。だが目標を失い、四方の壁や柱にぶつかり爆発する。
「はあ?全員避けたのかよ」
まさか範囲攻撃が不発になるとは思いもよらなかったのか、驚き顔をしていたが、舌なめずりをしたかと思うと次の魔法を叫ぶ。
「だったら、こいつはどうかな?バードチェイサー‼」
バードチェイサー――エルフが使う、光の鳥が物陰に隠れた対象を攻撃する魔法技
今度は左手の盾を上げる仕草をする。兵士たちは幾重にも束になって飛んでくる光の鳥に向かって盾を向けると鳥は次々兵士たちの盾に当たって爆発。何人かはその爆発で弾き飛ばされてはいたが、ほとんど無傷で立ち上がる。
――何とか対策は有効のようです。彼はどうもわざとなのか、本気で気が付いてないのかしれませんが、魔法詠唱前に技名を叫ぶ癖があるようです。なので、僅かですが隙をつく事が出来ます。
「なるほど、魔法に対して対策済みってわけね、さすがアンジェの部隊だね」
「益々、君が欲しくなるねえ」
アキラは口の横をくいっと上げてアンジェリカの顔を見据える。
彼の顔を見た時、心がざらつく。
そろそろまずい状況になるかもしれません、これからが本番。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます