第3話 対峙

「なんだと!それは本当か‼」

ザイド将軍の大声で一瞬、謁見の間は静まり返ったがすぐに兵士たちの動揺の声が上がり始める。


「なんてことだ!」

「御いたわしい・・・」


(―――お父様・・・)

 嗚咽する者、怒りに震える者、様々な感情が入り乱れてる姿を見て、冷静に、冷静になろうと動揺する心を押しとどめた。


「詳細をお話しできますか?」

私は息も絶え絶えの兵士に語りかけると、唾を飲み込みながら頷く伝令兵。体力回復用ポーションを少し口に含むとゆっくり口を開く。


「せ、戦況は若干有利に働いていたのですが、兵の体力が限界に近かったので立て直しを図るため、城内に一時撤退をしようと下がろうとした時に・・・」

悔しさと怒りの混じった顔になる。


「デボーズ公爵が東門を内から閉ざし、国王陛下の軍を締め出したのです」


「おのれ~やはり裏切っていたのか!」

ザイド将軍の口から怨嗟の声があがると、他の兵士もざわつき始めたが私は手を上げて制止させる。


「国王陛下の軍は徐々に討ち減らされ最後は勇者仲間の魔導士が指揮する魔法部隊の攻城魔法で・・・」

悔しそうに涙を流した。


「よく報告してくれました。あなたもよく無事で」

少し落ち着いたのか、伝令は助かった経緯を話し始めた。


「わたしは城門の上で弓兵をしていたのですが、部隊長に王女殿下にすぐに知らせるよう託されたのです。しかしデボーズ公爵の親衛隊に阻まれ、立ち往生した時に隊長と他の仲間が切り込んで道を開けてくれました」

再び涙を流し、嗚咽する。


 私は将軍に目くばせをすると、私の意を察したのかすぐに伝令兵を2人の兵士に城外に出られる地下通路に送るよう伝える。


 しばらく眺めていると俺が残るだのと揉めていたが、ザイド将軍の一喝が入って若い兵士二人が伝令兵に肩を貸しながら玉座の裏の通路に降りて行った。


「本当は王女殿下も脱出してほしいのですが」

去っていく三人を見ながらザイド将軍が遠い目をする。

「それでは意味がないのです。それにお父様が亡くなってしまった今、国王として最後まで責任を持たなければなりません」

「殿下・・・」

「それに、」

と言いかけた瞬間、ドォーン!という地響きと共に爆音が鳴り響き謁見の間の正面扉が白煙を上げながら崩れ落ちる。


「おーやばいやばい、結構頑丈だったから力入れすぎちゃったよ」

軽い口調で、一人の男がゆっくりと瓦礫になってしまった扉を踏みしめて入ってくる。

黒い髪、切れ長の目と整った顔付きに人懐こそうな笑顔。勇者アキラだ。


「やあ、アンジェちゃんお久しぶり」

手をヒラヒラさせて挨拶をしてくる。


 私の隣にいたザイド将軍が何かを言おうと口を開きかけたが、手で軽く制止して二、三歩寄りながら挨拶を返す。


「これはこれはアシタールの国王陛下アキラ様、お久しぶりでございます。魔神討伐以前ですから三年ぶりでしょうか?」

「ハハ、前みたいにアキラでいいよ。そうか、もうそんなに会ってなかったのかねぇ」

「ええ、そうなります。それで本日はどのようなご用件での来訪ですか?」

笑顔で答える。


「やだなぁ、アンジェちゃんそんな怖い顔しないでよ~、もうちょっとお話しよう?」


 ―――え?私の顔、怒ってる?

自分では感情の抑制が出来てると思っていても、意外と他人から見れば感情ダダ洩れなのかもしれない。なさけない。


「もう一度お聞きします。どのようなご用件で来られたのですか?」

少し怒気を込めて再び聞き返す。


 勇者アキラは頭を掻きながら「う~ん」と私に向き直る。

「一つはこの国、エスペローゼを我が国に組み込む事、もう一つは君、アンジェリカ王女が俺の所に来てもらう事かな」

 またあの屈託のない笑顔で答えた。多分本心で言っているのかもしれないが、悪意のない顔が心のモヤモヤを募らせ、イラつく。


「美しいエリーシャ王女を正妻に迎えて、さらに冒険者仲間のエルフの美女二人、ノイストール国の第二王女サーシャ姫だけでは足りませんか?」

呆れたように問いかける。


「う~ん、みんな優しいし俺の事を愛してくれてるし、とてもよくしてくれるけど、何かちょっと足りないんだよね、だからアンジェみたいな真面目なツンツンした娘も欲しいわけよ」

「は?」

思わず素で声が出てしまう。

 最初に出会った時から話をしていると度々、元の世界の用語を散りばめて喋るので理解に苦しむ。それに人を収集物のように語る口が私をさらにイラつかせる。


「だからさ、そろそろ終わりにしようって事!これ以上戦う必要ないでしょ?」

殺気立ってる謁見の間に詰める兵士たちを一通り眺めてから私の方に目を戻す。


「なるほど、私が貴方の元におもむき、降伏すれば以上の犠牲は必要ないということですか」

「そうそう、この辺りで手打ちということで」

「できません」

アキラの言葉に被せるように否定する。


「なぜだい?もう、この城は俺の軍で包囲されてるし、この国の兵士は君を見捨てて殆ど逃げ散って行ったというのに」


 アキラの言葉で確信した、みんなうまく逃げてくれたと。


 最初からアキラがいる軍にエスペローゼ王国が勝てる見込みはない事はわかっていた。友好国の隣国ミルサリアと話し合いの結果、一時的とはいえ屈辱的かもしれないが、国民の安全と財産を守るため属国になると閣議決定をした直後、デボーズ公爵の息が掛かる辺境伯ホルテン卿が旧ロベルタ国軍(現アシタール軍)に国境紛争をしかけ、戦火は拡大。当初の予定が大幅に狂ってしまう。


 デボーズ公爵が、アシタール王の提案を持ってきた時から何かを目論んでいる事はお父様もわかってはいたものの、事の流れは早急すぎたのだ。だからこそ、彼らには何も残さない。



「アキラ様、私がここにいるのはエスペローゼ王国の新たな王としての責を果た為にいるのです。ましてや目の前にいる父の仇に一太刀を浴びせず、どう御先祖に顔向けできましょうか?」

「えっ?仇⁈国王死んじゃったの?殺さないようにって言っておいたのに・・・」

まるで他人事だ。


(―――ぷっつ)

その時、私の中でくすぶっていたモヤモヤやイラつきは弾けてしまった。


「いい加減、黙りなさい!!これ以上の問答は無用です!!」

「⁈」


 アンジェリカの激高に謁見の間は静まり返り、城を燃やす炎の音だけが響く。

そして、左手に持っていたカイトシールドの裏から右手でショートソードを抜いてアキラの前に構え、隣に控えるザイド将軍に合図する。





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