彼の夢、君の夢


 めまいも眩ませるような

 陽射しに促されて、目を開けた。


 天変地異の前触れを思わせるほどに

 朱く燃ゆる夕日があった。


 そのアカさは尋常ではなくて、

 あまりにおそろしくて

 目を背けたいはずなのに、

 なぜかそれができない。


 神秘的な美しさに呑まれたのだ。


 言うなれば、吸い込まれるような紅蓮。

 空に揺蕩(たゆた)う紅玉の炎。


 それ以外は見えない。

 映じられない。

 不自然なくらいに。


 あやかしに化かされているように、

 ぼんやりと感覚に

 身を委ねていたときだった。



『――り、おり。ちおりっ!』


 忘れもしないあの声が私を呼んでいる。


『知織』


 確かに鼓膜に響いたその声は

 彼のものだった。


(……え? どういうこと?

 なんであなたがそこにいるの……っ)


 さきほどまで何もなかったところに

 地面と人影が出現していた。

 けれど、その背景は

 凍えるほどにおそろしい空の紅さばかり。

 他には何もない。

 田舎特有の田畑さえ、だ。


 だが、その訳の分からなさ・非科学的さに

 かえって納得がいった。


 これは夢だ。



『知織どうしたの。

 知織が話したいことがあるって

 言ったんだよ?』


 そんなの知らない、

 そう言おうとしたのに

 唇は違う動きをした。


『うん、ごめんね。

 ちょっとぼーっとしてたみたい』


 意に反して動く唇を

 どうにかしようと思ったのも、

 ほんの一瞬だった。


 次第にモヤが晴れていき、

 彼の姿が露わになっていく。


 その姿を目視して、

 私はやっぱりと思った。



 めまいも眩ませるような

 陽射しに促されて、目を開けた。


 天変地異の前触れを思わせるほどに

 朱く燃ゆる夕日があった。


 そのアカさは尋常ではなくて、

 あまりにおそろしくて

 目を背けたいはずなのに、

 なぜかそれができない。


 神秘的な美しさに呑まれたのだ。


 言うなれば、吸い込まれるような紅蓮。

 空に揺蕩(たゆた)う紅玉の炎。


 それ以外は見えない。

 映じられない。

 不自然なくらいに。


 あやかしに化かされているように、

 ぼんやりと感覚に

 身を委ねていたときだった。



『――り、おり。ちおりっ!』


 忘れもしないあの声が私を呼んでいる。


『知織』


 確かに鼓膜に響いたその声は

 彼のものだった。


(……え? どういうこと?

 なんであなたがそこにいるの……っ)


 さきほどまで何もなかったところに

 地面と人影が出現していた。

 けれど、その背景は

 凍えるほどにおそろしい空の紅さばかり。

 他には何もない。

 田舎特有の田畑さえ、だ。


 だが、その訳の分からなさ・非科学的さに

 かえって納得がいった。


 これは夢だ。



『知織どうしたの。

 知織が話したいことがあるって

 言ったんだよ?』


 そんなの知らない、

 そう言おうとしたのに

 唇は違う動きをした。


『うん、ごめんね。

 ちょっとぼーっとしてたみたい』


 意に反して動く唇を

 どうにかしようと思ったのも、

 ほんの一瞬だった。


 次第にモヤが晴れていき、

 彼の姿が露わになっていく。


 その姿を目視して、

 私はやっぱりと思った。


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