第24話 線引はしっかりと
『今から星鏡を見に行ってみない?』――というクラウスの提案に即答する事は出来なかった。
ヴィクトール卿が鏡珊瑚は
光をしっかり蓄えた綺麗な星鏡を楽しみにしてるけど、今どんな感じなのかもちょっと気になる、見にいけるなら見に行ってみたいけど――
「クラウス……もしかして、ここに来たのって私と星鏡を見る為?」
「ち、丁度今日ここに来るタイミングが星鏡と重なったから……愛を誓うのに人数制限はないし、ちょっと輝いてる程度の星鏡なら僕と見ても問題ないかなと思って……」
クラウスの言い方から、ここに来るタイミングは重なったんじゃなく重ねたんだろうなって事がひしひし感じ取れる。
確かに、星鏡を見ながら愛を誓いあった恋人達は永遠に幸せになれる、的なジンクスに人数制限は無さそう――というよりあったらロマンが台無しと言うか、そこは暗黙の了解ってやつな気がする。
クラウスが私と星鏡見ようと思ってここに来て、結果的に私を助けてくれた事を考えたら、お礼にクラウスのお願いを叶えたい気持ちもあるんだけど――
「……ごめん、星鏡はダグラスさんと見るって約束したから。クラウスとは見れない」
「……そっか」
ハッキリ断るとクラウスは悲しそうに視線を伏せる。
罪悪感がジワジワと心に滲み出てくる中、セリアもクラウスの様子に思う所があったようで
「……クラウス様、来節は
「祝歌祭?」
「マリアライト領で年に一度、数日間かけて開かれるお祭りです。人や魔物の心を鎮め、幸せをもたらす為に領中に一日中響く歌姫様の歌声が響く祝歌の日は勿論、前後の日も都市それぞれが抱える楽団や合唱団から様々な歌や音楽を奏でて……私も一度だけ行った事があるのですが、とても楽しかったです」
「わぁ……聞いてるだけでも楽しそうね! ね、クラウス、私、祝歌祭行ってみたいんだけど来節、連れて行ってくれる!?」
セリアの助け舟に全力で乗っかると、クラウスの表情もパァッと明るくなる。
「も、もちろん! 僕も祝歌祭に飛鳥を連れて行こうと思ってたから……! でも、ダグラスも行きたいって言い出したら?」
「来節はクラウスと過ごす節だもの。ダグラスさんから一緒にって誘われても今みたいに断るわよ」
その辺りをグダグダにしてしまったらダグラスさんもクラウスも不安を抱えて過ごす事になるし、2人に(邪魔しに行っても許してもらえる)と思われると困る。
「だから、クラウス……今日助けられた私がこんな事言える立場じゃないのは分かってるけど今後、私がダグラスさんと過ごす節はそっとしておいてほしい。もちろんダグラスさんにも、私がクラウスと過ごす節はそっとしておいて、って言うから」
このやり方で絶対上手くいく、なんて自信は全く無いけど――3人一緒に過ごすのよりはずっとマシだと思う。
『相反する色の人間と一緒にいるのは害虫と一緒にいるようなもの』と聞かされたら無理に仲良くしてよとは言えない。
私にはバチバチと火花散らして今にも喧嘩しそうな険悪な2人を前に『仲が良いのね2人とも♪』って屈託のない笑顔で言える鈍感力もなければ『うふふ、困った人達ねぇ』と他人事で眺められる女王様並の器量も持ってない。
そんな私が悩み抜いて考えた、一節おきに互いの間を行き来する往復結婚生活は平和と、自分及びセリアの胃を守る為に恥と世間体を切り捨てて考えた精一杯の策。
最初からなぁなぁで流してしまう訳にはいかない。
私の意志が伝わったのか、クラウスは反論する事もなく小さく頷いてくれた。
「……分かった。けど、こいつの記憶が解読でき次第、飛鳥に伝える必要があると思うんだけど……どうしたらいい?」
確かに今は非常事態だ。来節までシャニカを拘束させるのも色々問題があるだろうし、クラウスにも大分負担をかけてしまう事になる。
私もなるべく早く今回の事件の全容を知りたい。
でもダグラスさんとの旅行なのに、ダグラスさんの眼をかいくぐってクラウスとコソコソ会ってたら浮気を疑われてしまう。
それなら――
「セリア……仲介役頼んでいい?」
「かしこまりました」
要は私がクラウスを会わなければいい訳で、セリアがクラウスから聞き取った情報をダグラスさんの隙をついて私に伝えてくれれば、この辺の問題は解決できる。
どうやら色神は他の色神の気配を察するみたいだから、近くにクラウスの気配を感じさせる点ではダグラスさんに申し訳ないと思うけど――実際に私がクラウスと会って話す姿を見なければ、ダグラスさんもそこまで不機嫌にはならないだろう。
その後、クラウスとセリアがいつどうやって落ち合うか、セリアがダグラスさんに気づかれないようにどうやって私に伝えるか、などラインヴァイスの上で打ち合わせしているうちにノーブルビーチホテルに着いた。
「それじゃクラウス、彼女が目覚めたら、お姉さんは無事だって事伝えてあげて。後、球体に閉じ込めっぱなしじゃなくてご飯とかお水とかちゃんとあげてね?」
「分かってるよ。あんまり閉じ込めすぎると飛鳥への恨みを余計に募らせそうだからね。もう二度と暗殺しようなんて気にさせないよう、丁重に扱うよ」
地上に降りる前にクラウスにお願いすると何か含みのある返し方をされた。
シャニカを気の毒に思う気持ちはあるけど、解放してまた暗殺企てられたらたまったものじゃない。
「それじゃあ飛鳥、気を付けて」
クラウスと白い球を乗せたラインヴァイスを見送った後、ホテルの部屋に戻った時には19時を過ぎていた。
運ばれてきた豪華な食事は一人で食べるには寂しいのでセリアにも食べてもらう。
(大丈夫かなぁ、ダグラスさん……)
ディナーが並べられたテーブルの横――窓の向こうに煌めく星空を眺めながら、ダグラスさんが無事に戻ってくる事を願いつつ、
(星鏡は見るとして、問題はその後なのよね……)
果たして今日、ダグラスさんと契ってしまっても良いものかどうか――
私が他の男に心移さなければ世界崩壊を防げる未来なら、私が浮気しなければ済む話で。
だけど、ダグラスさんが私が他の男と話しただけで浮気認定するほど私に執着してるような未来だったら、ダグラスさんが私を愛し過ぎないように調整する必要がある訳で。
ツヴェルフと契ったら執着が強まる――つまり今日契ったら取り返しがつかなくなるかもしれない。
(できれば今日は契りたくないんだけど……)
でも、ダグラスさんは今日絶対に致す気だ。最高のムードで永遠の愛を誓いあった恋人達の夜に何事も起きない訳がない。
というか、もし全く致す気がなかったとしたら私が凹む。
(手っ取り早い方法としては『生理になった』って嘘つくのがベストだけど……)
以前、他人に等しいアーサーに生理用品を買いに行かせた事がすっかりトラウマになってて、その作戦を考えただけで物凄く気が重くなり、血の気が引く感覚を覚える。
異性の前でその単語を口に出すだけで女性としてのプライドと言うか尊厳が著しく損なわれる気がすると言うか――この嘘はもうどうしようもない時の最後の手段にしたい。
(お腹痛くなった、とか……駄目だ、最近ダグラスさん私がちょっとでも怪我したら回復してくれるようになったし……)
どうやら自分の中にあった白の核を永魔石? っていう石に変えて杖に取り付けたらしくて、一度その杖で治してもらった時にお礼を言って以来、かすり傷でも擦り傷でもちょっと咳が出ただけでも治そうとしてくる。
(怪我や病気は治されちゃう……用事とか……ううん、真夜中に用事を思い出したとか不自然極まりないわ……)
大切な一夜に似つかわしくない嫌な悩みと重い気持ちを抱えながら食べる高級ホテルの食事は美味しい物のはずなのに、深く味わう事が出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます