「私のために死ねるなら幸せよね!」と勇者姫の捨て駒にされたボクはお前の奴隷じゃねえんだよ!と変身スキルで反逆します!〜あれ?いつの間にか助けた5億人の美少女に溺愛されて神と崇められてしまっているのだが
ざまぁ回。15話。勇者イルティア、天から叩き落とされる
ざまぁ回。15話。勇者イルティア、天から叩き落とされる
「来たれ魔王の剣【完全なる虚無(ギンヌンガガプ)】!」
ひときわ甲高い少女の声が、頭上から響いた。
同時に、塔のように巨大な漆黒の剣が、上空から打ち降ろされる。
「……なに!?」
ボクの【聖炎槍(フレアズ・グングニル)】は、その闇の刃に飲まれ、跡形もなく消滅した。
「まさか飼い主に噛み付くとはね。ルカ、お前には死ねと命じたハズよ!」
光の翼をはためかせめて、上空の魔法陣より、天使と見紛うような美少女が降下してくる。
ヤツは、もう姿を隠す気はないようだ。
その少女は、左手に禍々しい波動を放つ魔導書を。右手には清らかな波動を放つ聖剣をたずさえていた。
巨大魔法陣によってアークデーモンを召喚していたのは……
「イルティア!」
ヤツの出現に、場が騒然とする。
ボクは聖剣を握り締めて、仇敵を睨みつけた。
召喚されたアークデーモンが通常種より強力だったのは、イルティアのスキル【軍神の加護】で、能力値が20%アップされていたためだった。
この地の人々を見捨てただけでなく、わざわざ滅ぼしに戻ってくるなんて……
「なっ!? ルカ姫様がふたり!?」
「ルカ? ルカですって!? 我が名はイルティア! これはお父様よりいただいた誇り高き名だ!」
みなの疑問を代表して叫んだエリザを、イルティアが憤然と見下ろす。
「エリザ! お前は仕えるべき王女の名もわからないの!? 無礼者! 私こそ勇者イルティアよ!」
「勇者? お前が!? 人々を魔物に襲わせるようなヤツが、勇者だと!?」
ボクは【光翼(シャイニング・フェザー)】を展開し、フェリオと共に空に駆け上がった。
ユニコーンは地上を走るより速度は落ちるが、宙を蹴って飛翔することができる。
「【光翼(シャイニング・フェザー)】!? し、しかも4枚の翼ですって?」
イルティアが、驚愕に目を見開く。
ボクの光翼はクラスチェンジによって、効果が全能力値4倍アップに進化し、数が4つに増えていた。
もっとも発動時間はあと10分ほどしか残されていないので、余裕はない。
「ルカ! お前ごとき野良犬が、幻獣ユニコーンを従えただけでなく……聖なる王家の証である【光翼(シャイニング・フェザー)】をまとうなんて。その罪、万死に値するわ!」
「お前こそ、その罪、100回死刑になっても足らないくらいだ。見ろ! この街の惨状を! これが王女の……勇者のすることか!?」
ここはボクの生まれ育った街。逃げ惑う人々の中には、いつも料理を山盛りにしてくれた定食屋のおばさんなど、見知った人もいた。
ボクの両親だって、無事でいるかどうかわからない。
「ふん! これは王家への反逆に賛同した奴らに対する制裁よ。この国の平和と秩序を乱すヤツらを叩いて、何がいけないの?」
イルティアが傲慢に鼻で笑う。
「遠見の魔法で、この都市の状況を確認して、奇跡的に勝ったようだから。褒めてあげようと思って戻ってきたら……
こともあろうに、勝手に私の名前を改名した挙げ句、数百年この世界を守ってきた王家を廃するですって!?
ルカ、お前も、お前に賛同したこの都市の連中も全員死刑よ!」
「それで、この都市を魔王の極大魔法の実験台にした訳か!?」
上位悪魔の連続召喚。そんな芸当は魔王でもなければ不可能だ。
それに今の【完全なる虚無(ギンヌンガガプ)】という魔法は、ボクには使えない。
おそらく『魔王の魔導書』の力を借りて、発動できる類の極大魔法だろう。
イルティアはボクを身代わりにして逃げた際、魔王討伐軍をおこしたのは『魔王の魔導書』を手に入れるためだったと得意げに語った。それによって不老不死になるのが目的だと……
魔導書とは単なる書物ではなく、魔法の威力をブーストしたり、魔法の発動を補助する魔導具だ。魔導書の力を借りれば、本来は使えないような術者の力量を超えた魔法も放てる。
まして、魔王の魔導書とくれば、どんな力を秘めているかわからない。
「察しが良いわね? 魔王の極大魔法には発動条件があってね。人間を生贄に捧げることよ。
アークデーモンどもも、この都市の人間を好きに殺して良いという契約の元、召喚に応じたの」
イルティアは手に入れた力をひけらかすのが楽しいのか、得意顔で不要なことまで語りだす。
「今使った【完全なる虚無(ギンヌンガガプ)】は、術者が自らの手で最低でも3千人を殺め、カルマ(業)を溜めていることが発動条件。さすがに、勇者の私がそんな大殺戮を行うわけにはいかなかったけど。
あんたたちに制裁を加えることで、クリアできたわ。ある意味、感謝しないとね!」
「もういい、わかった……」
ボクはイルティアと上空で対峙する。光の刃を、ヤツに突きつけた。
「1秒でも速くお前をぶっ倒す!」
「へえ? みなの者! 勇者イルティアの名において命ずるわ!」
イルティアは人々を虫けらのように見下ろしながら、命令した。
「ルカが聖騎士団に預けたコレットという娘を人質に取りなさい! そうすれば召喚魔法による攻撃は中止して、命だけは助けてやるわ!」
「へ!? わ、私……!?」
名指しされて、地上で妹が目を丸くしている。
こ、この女。状況をしっかり観察して、ボクの弱みを知ってから、攻撃を仕掛けてきたのか。
ボクは一瞬、凍りつくが……
「黙れ! 我が主、ルカ姫様を騙る大罪人が! 我はエリザ=ユーフォリア! 聖騎士団団長にして、ルカ姫様の剣なり!」
エリザが音声拡大魔法で、都市全域に響くほどの大声を上げた。ビリビリと空気が震える。
「オーダンの民たちよ! 惑わされるな! 私は王女殿下がご幼少のみぎりより、お仕えしてきた。その私が断言する! 本物の王女、真の勇者はルカ姫様だ!」
「その通りよ! オーダンの領主ミリア=ティアルフィが宣言するわ! 本物の王女はルカお姉様! イルティアと名乗るそいつは、真っ赤な偽物! 魔王の手先よ!」
ミリアもあらん限りの大声で叫ぶ。
「ふっ、そんなことは聖騎士団の者は全員、言われなくてもわかっておりますわ、団長! ルカ様こそ、我らが主!」
「魔王の手先が、勇者を名乗るとは小賢しいです!」
「ルカ姫様の大事な人を人質に取るなんてあり得ません!」
聖騎士団の少女たちが、エリザに次々に賛同。イルティアに罵声を浴びせる。
「ご領主様! バカにしないでくだせぇ! 俺たちだって、そんなことはわかってら!」
「ルカ姫様こそ、本物の勇者! 私たちがあおぐべき、真の王者です!」
「ルカ様! そんな偽物なんかに負けないで!」
ボクが暗黒騎士団から救った人々を中心に、領民たちからもボクを支持する声が次々に上がった。
イルティアの命令に従おうなどという者は、ひとりもいない。
みなが、ボクこそ勇者だとたたえてくれた。
「なっ!? 愚民どもが!」
イルティアが憎々しげに、地上を見ろす。
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勇者を応援する人の想いが増したことにより、聖剣の攻撃力がアップしました。
5600……7450……8200……さらに増大します!
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ボクの頭の中に、無機質な声が響く。
同時に握った聖剣の刃が、さらに強く、まばゆい輝きを放った。まるで、地上に星が降りてきたかのようだ。
「……ありがたい! みんなの想い無駄にはしないぞ!」
ボクは湧き上がる熱い想いと共に、剣を構える。
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聖剣の攻撃力、1万を突破!
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「ふん! 究極の聖剣【スター・オブ・シェラネオーネ】ですって? 紛い物の勇者風情が片腹痛いわ!」
イルティアは聖剣を腰の鞘に収めた。ヤツの左手の魔導書が宙に浮かび上がり、どす黒い霧のような瘴気を撒き散らす。
「勇者に逆らうとは、神に逆らうとおなじこと。塵ひとつ残さず、消滅させてやるわ」
膨大な瘴気が、イルティアの右手に集まり、闇の大剣の形に濃縮されていく。
先程より小さいが、凝縮された力の密度は、はるかに強大であることが感じられた。
「魔王の剣【完全なる虚無(ギンヌンガガプ)】! さあ、虚空の彼方へ消えされ!」
イルティアは闇の刃を猛然と、ボクに振り下ろす。
筋力強化魔法など、さまざまなバフ(魔法強化)を重ねがけした渾身の一撃だった。
例えボクが、不死身であろうと関係ない。かすっただけでも、ボクはこの世から消えてなくなることを直感した。
引き伸ばされる時間の中、ボクの師匠の言葉が思い出される。
『この技を使いこなせれば、お前は最強の前衛になれるだろう。いつかお前自身だけでなく、他の誰かを守れる男になれよ。小僧』
「……はい、師匠!」
魔王の剣を、光の刃で受け流す。
相手の力に逆らわず、力の方向だけを、そっと逸す。
今までの中で、最高のソードパリィ(剣による受け流し)だった。
「なっ……!?」
イルティアが驚きの表情で固まる。
【完全なる虚無(ギンヌンガガプ)】に触れれば、光の刃はボクもろとも消滅する。ヤツは、そう確信していたハズだ。
それが魔王の剣をあらぬ方向に振り抜くことになり、無防備な姿をさらした。
ボクはその隙を見逃さず、イルティアに聖剣の一撃を叩き込んだ。
究極の聖剣。現在の攻撃力10632
(ルカを支持する人の数と、その想いの強さが攻撃力に反映される)
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