ざまぁ回。16話。もう一度、私とキスしなさい!
「……きゃあっあぁああ!?」
ボクに斬られたイルティアの背から、光の翼が消え失せる。
彼女は、もがくように宙を掻くが、そのまま地面に落下した。
ボクの聖剣は、神聖属性エネルギーによって形成された剣だ。邪悪な魔物に特に有効だが、人間を斬っても命まで奪うことはない。
ボクだけのユニーク武器である聖剣の攻撃力や追加効果などは、ステータスウィンドウから確認することができる。
それによると、聖剣に斬られた人間はスキルと魔法が3時間ほど使用不可になるらしい。
「……うっ……うう」
瓦礫の上に墜ちたイルティアは、埃まみれの身体を必死に起こそうとした。
召喚者による魔力の供給が絶たれたために、上空の巨大魔法陣が消滅し、アークデーモンたちも、元いた世界に還っていく。
「拘束せよ!」
エリザの号令で聖騎士たちが、その場にすぐさま駆けつけた。
イルティアは少女たちに、聖剣と魔導書を奪われ、羽交い締めにされる。さらに身体拘束と魔法封じの魔法を、何重にもかけられた。
もはや、あの娘は小指一本自由に動かせないだろう。
「は、離しなさい無礼者! 私は勇者イルティア! 神にも等しい存在なのよ!」
イルティアは、もうある程度、体力が回復したのか喚き散らす。使い手を癒やすヤツの聖剣の加護のおかげだろうが、頑丈な娘だ。
ボクも幻獣フェリオと共に、イルティアの元に降り立つ。
「ルカ姫様! この者の罪、許しがたいです。この場で首をはねましょう!」
イルティアを押さえつけた聖騎士の少女が、怒気をみなぎらせて進言する。
「聖騎士様の言う通りだ! そいつのせいで、俺の娘は……!」
「私の夫も、悪魔に殺されました! どうか仇を!」
遠巻きにボクらの様子を見守っていた人々からも、賛同の声が上がった。
「はぁ!? 勇者である私の首をはねる?」
「当然だろ? 他人を殺すことは、自分が殺される覚悟を負うということだ」
ボクはフェリオの背から飛び降りながら、言い放つ。冒険者の基本的な心構えだ。
命を奪うなら、死を覚悟してのぞまなくてはならない。
「仮にも勇者のクセに、そんなこともわからないのか? 3000人以上も殺しておいて、ただで済むと思っているのか?」
「ルカ!? そ、そうよ! 命令よ。お前、もう一度、私とキスしなさい。そうすれば変身がとけて、私こそ本物の勇者だって、こいつらにわかるハズよ!」
イルティアは、未だに他人が自分の命令に従って当然だと思っているようだった。
呆れて物も言えない。
「誰がお前みたいなヤツとキスするもんか」
「な、なんですって……!?」
イルティアは怒りのこもった目で、ボクを睨みつける。
だが、殺気立った周囲の視線を浴びて、ようやく自分が置かれた立場に多少は察しがついたようだ。
「……お、お前の言う通り、ふたりで協力して魔王を倒そうって言っているのよ。私たちが力を合わせれば無敵でしょ?
そ、そうだ! お前をエリザに代わって私の近衛騎士団長にしてあげる! 爵位だって、お金だって、領地だって、望みのままあげるわ!」
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