第15話 いざ、異世界へ
「あ~あ~あ~……」
吹き荒れる風。流される体。感覚は、ジェットコースターに乗って振り回されている。外側から見れば。ソフトクリームのように、螺旋を描く。
頼子も男の子も声を上げ続けて、恐怖を和らげる。腰の辺りから、笑い声が聞こえた。つられて笑う。
「玉の中に入れば?」
冷静になった、頼子の耳に届く。幼い子どもの声。腰に提げた、山吹色の鬼灯からだ。無理だ、と思う。想像が創造力につながるのを思い出す。試してみる。
必死に開いた、まぶた。風が目に染みる。男の子を抱える腕。かすかに、山吹色に光る。
山吹色に染まった人智を超える力は、自分の持ち物という感覚。できる、と、頼子は確信。自分たちを包む、球体を想像する。
「できた!」
形作られた壁。風を遮った。風の一部になれたが、こりごりだと頼子は思った。
変わらず、風に流されている。吹き飛ばされるのは、マズイ。有名な物語を、頼子は思い出していた。竜巻によって、異世界に行く。
選んだ扉の向こうとは別の世界に行ったら、夕陽の涙を手に入れられなくなる。頼子の思考を読んだ、鬼灯の中の玉ころがずっこけた。
待てよ。頼子は思い直す。今居る所が、当の異世界なら。吹き荒れる風の中から、夕陽の涙を探すことになる。無茶だ! 心の内で叫んだ。玉ころがむくれた。
「ああ! ボクの体が……」
「は?」
「だから、僕の体から、魂が抜けちゃったんだ」
男の子が嘆く。思わず、頼子は聞き返す。泣きべそをかき、男の子は足をばたつかせる。じれったそうに訴えた。気づかされる。体重がないことに。
辺りを頼子は見回す。風の渦の向こう、黄色と黒を見つける。長袖のセーターの上から、オーバーオールを着た。背を向けてはいるが、黒の短い髪は判る。同じくらいの背丈。
「あなたの名前は?」
「ギリア」
黒い瞳を見返して、頼子は訊く。じめっとした声で、ギリアが答える。
「ギリアくん、泣くな! 私が何とかする」
「はいぃ!」
叱るように、頼子は約束する。ビクッ、と、ギリアは背中を伸ばす。力強く返事した。
「まず、足場を作る」
偶然、一致する。頼子と玉ころの考えが。玉ころが喜ぶ。頼子は聞いていなかった。
渦の中心を貫く、山吹色の光の柱。台風で言えば、目に当たる。手応え。いや、震えが下から、上に伝わってくる。突き刺せた。
包む壁ごと、柱の上に移る。フゥッ。頼子は息をつく。足下があるのはいいものだ。落ち着ける。
頼子の足元にできた、影。人の形をしていたが、ゆがむ。まるで、影に意識があり、うごめいたみたいに見えた。
さっき見えたよりも、体が遠くに見えた。時間が経てば、経つほど離れると頼子は知る。
「竜巻を切り裂く」
竜巻を切るほどの刀を形作ろうとした。頼子の脳裏をかすめる。ひとつの考えが。
そもそも、抜けた魂が、肉体に戻れるのか。たとえ、戻れたとしても、肉体や心がショックを受けた時に。抜ける可能性があるのでは。くせがつく、みたいな。
ジリジリした。条件を満たす方法はあるのか。頼子は数多く読んだマンガの中から、手掛かりを探す。
意を受けた玉ころは、まがい物から得た知識から手掛かりを探す。
時間だけが過ぎていった。
夕陽の涙~至高の宝石を巡り、因縁の相手と対決。転生前の自分のルーツを探しに行く話 奈音こと楠本ナオ(くすもと なお) @hitoeyamabuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。夕陽の涙~至高の宝石を巡り、因縁の相手と対決。転生前の自分のルーツを探しに行く話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます