第12話 いざ 異世界へ
翻弄されてますなあ。頼子の感想。有名な鬼退治の昔話のひとつ。諸説あると聞いたが。一説が書き換えられたとしても、歴史に影響が及ばないと判る。
それにしても。頼子は注意を向ける。頼光に毒を勧めた男に。手応えがなかったという。人智を超える力で、姿を形作ったと思われるが。何者だ。
「大丈夫かなあ」
頼子の心の声が出てしまう。話を聞いて、不安になった。争奪戦に参加するに当たり、父が護衛につけてくれた。召喚した、頼光を。敵に振り回されて、務まるのか。頼光が言う。
「結果を出しましたが……。不安な要素が残っていますね」
「ボクがいるからね」
幼い子どもの声。聞こえてきた学習机の方を、揃って向く。上には山吹色のほおずき。友達から譲ってもらった物だ。規則が緩いこともあり、頼子は毎日持ち歩いているが。ちょい、ちょい、口を挟んでくる。気づかれていないと思っているらしい。
気づいていると教えるべきか。気づいていない振りをするか。悩んで、放置した結果。後者になった訳だが。頼子は察する。置いていかれるのを危惧した、と。
「でも、まっ。大丈夫でしょう。助けてくれる者たちもいるし。私、運が良いから」
立ち上がった頼子が言う。自分も含まれていると判り、ほおずきから満足そうな気配がしてくる。学習机の前に立ち、ほおずきを手にする。キーホルダーのように、細かな鎖と輪がつながっている。パンツのベルトを支える紐に輪を通した。
長針が、数字の11を差す。頼子は奇妙な感覚き襲われる。仰向けに倒れる、自分。踏み留まる、自分。
ヒヤリとする。家族を起こすほどの音が立つのではないか。後ろに回った、頼光が支えていた。姫抱っこをして、ベッドに寝かせてくれる。
仰向けで眠る、自分を覗く。一石二鳥。頼子は思う。肉体は、睡眠不足を解消する。精神体は、争奪戦に参加する。
透明な壁を隔てた向こう側。カウントダウンが始まる。減っていく数字の中。しげしげと、頼子は自分の顔を眺めた。
母に似た、愛嬌のある顔立ち。周囲の評価は、まあまあ。父に似て、生真面目な性格。かわいくて、明るく、ノリが良い性格なら、もてるらしいが。自分の場合は、難しい。
ボーン、ボーン、ボーン……。
長針と短針が重なる。12の数字の上で。柱時計が、時間を知らせる。家にあったか。頼子は首をかしげる。合図だと気づいた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。名を呼べば、わしはどこにでも駆けつける」
見上げた頼子は言う。頼光は伝えた。できるかな、と、空耳が聞こえた。
自室のドアを開く。真っ白な空間。聞いていたとおり。頼子は足を踏み出す。振り返って、目が合う。心配そうな、頼光と。笑って、ドアを閉める。音が鳴りやんだ。
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