第11話 いざ 異世界へ

 長針が指し示す。数字の10を。瞬間、鳴り出した、目覚まし時計。


 源 頼子(みなもと よりこ)は手を伸ばす。サイドテーブルの上。手探りの後、硬い物に触れる。ボタンを押した。手を掛け布団の中に戻して、二度寝を決め込む。


 頼子は思い出す。夕陽の涙の争奪戦に参加すると決めたことを。至高の宝石と呼ばれる。しかも、はた迷惑な時間に始まる。起きなければ、と、思うものの難しい。


 脳は眠りたがっている。再び、手を伸ばす。パチッ。音が立つ。枕元を照らす、照明を点けた。まぶたの裏。明るさを感じる。


 眠りが足りない。訴える脳をなだめる。まぶたを開く。身を起こす。


 ベッドの端に、頼子は腰を下ろす。視線を上げた。漫画本が詰まった本棚を背にして立つ、男と目が合う。


 向こう側が透かし視えるが。頼光(よりみつ)という古風な名前に合う、古風な顔立ち。着ているのは、黒のジャンパーに、青いデニムのパンツだが。


「早くないか?」


「うきゃー!! 一時間、早かった-!!!」


 不思議そうな顔で、頼光は問い掛ける。頼子は見返す。振り返って、アナログ時計の隣にあるデジタル時計で確認。悲鳴に近い声をあげる。どおりで、起きられなかった訳だ。時間帯の問題なのを棚に上げた。


「御手洗いに行くね」


「スニーカーを取ってくる」


 玄関に向かう、頼光を見送る。洗面所に頼子は向かう。冷たい水で、顔を洗った。頭がはっきりする。


 自室に戻って、着替えを済ませる。黒と白のボーダー柄の長袖のTシャツに、白っぽいグレーのデニムのパンツ。黒い靴下を履く。ドアをノックする音。


「どうぞ」


 頼子が声を掛ける。頼光が入ってきた。腰を下ろして、太ももの上に黒のスニーカーを載せる。最近、読んだ絵本の真似をして、履かせてくれようとしていると判った。


 頼光から奪うようにして、スニーカーを手にする。頼子は自分で履いた。


 濃いグレーのパーカーを羽織った。櫛でとかした黒髪を、黒の髪ゴムでひとつにまとめる。


「時間があるから、教えてよ。私たちの所に来る前の出来事を」


 学習机の椅子を移動させる。ベッドと向かい合わせに置く。頼子は椅子に座るように勧める。立っていても疲れないと頼光は言うが。視線の高さの差を縮めたかった。


「そうだな。わしのみっともない話を聞いてもらおうか」


 勧められた椅子に、頼光は座る。頼子はベッドに腰掛けた。頼光は話し出す。


 意図的に、忘れさせられた。ゆえに、家族にも話していない。召喚されて、扉をくぐった後。思い出した話。頼光が話しやすいように進め、頼子は聞き役に徹した。

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