第8話 玉ころの思惑

 怪しげな赤い光。たたえる、月。人の理性を狂わせることなどないように。隠したがった、黒い雲。風が集めた。


 羊のように、群れる雲。濃さが増す、隙間。濃紺色の光が影を作った。


 影を作る主を、名前を奪われた男が見たら。さぞかし、驚く。髪、肌、服の色。服の形は違えど。顔立ちは、そっくりだった。毒を飲ませた人間に。


 くっ、くっ、くっ。濃紺色の光をまとう存在は、笑い声を立てる。


「安心するには、まだ、早い」


 ひとしきり笑った後、ささやく。青系統の光をまとう存在が。


「いかに、高名な陰陽師の弟子のあなたとしても。我が有する力には、勝てますまい」


 惨劇が始まるのを待ちかねた。濃紺の光をまとう存在は。都に病が広がる。




「おさまるべきところに、おさまったか」


 独りごちる声。赤い光の中から発せられた。見分けられたら、奇跡と呼べる。砂粒ほどの大きさの玉ころがいた。


 いまいましげに見おろした先に、群れる雲。隙間に、人間の姿を形作った存在。濃紺色の光をまとう。


 見上げれば、淡い黄色の月。柔らかく、温かそうな光の。玉ころの周りのみ、赤い光が放っていた。


 使われた大きな力。時間も空間も歪めるほどの。濃紺色の渦を描く。列の最後尾で降りていた玉ころが吸い込まれる。今居る所に、放り出された。幾つ、巻き込まれたか。知らない。


「ん?」


 弾く感覚。近づいてくる気配。仲間と玉ころは感知。


 赤い玉ころ自身、歪みをただす気はない。感付かれて、共鳴を強制されたくなかった。仲間は異なる考えと思われた。


 ヒョイッ、と、光の中から、玉ころは飛び降りる。群れる黒雲の脇を通り抜けた。


 刀の切っ先を自分に向けてきた、男の右肩に降りる。赤い光は、日が昇る頃に回収した。




 気づいたら、吸い込まれる。気づいたら、吹き出された。方々に散っていたが。明るい色の光を目安として。集った数個の玉ころ。とりあえず、列を成して、降りていく。下がっているか、上がっているか。判っていないが。


 忍び笑いが届く。何がおかしいのか。興味がわいた。降りていく列から、ひとつの玉ころが外れる。強く照りつける日の黄色の光を思わせる、山吹色の光を放つ。


 光が陰る。玉ころが内包する力の量が減った。水平移動に力を使ったせい。想定内の出費といったところ。


 黒雲の隙間。濃紺色の光をまとう存在の傍らに浮かぶ。周りに人間がいれば、背筋を凍らせる笑い顔。覗き込んだ玉ころには、区別がつかない。考えるのを投げ出した。


「つまんないな」


 足元にある小石を蹴るような雰囲気。金__力を返せと言いたいところだが。選んだのは、自分。気に入らない奴との共鳴はお断り。列に戻っても、退屈。


「!」


 面白い事を、玉ころは感知する。人智を超える力による歪み。空間が波打って見える。丁寧にただしてやった。

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