第7話 玉ころの思惑
ホー、ホー。
鳴いているのは、フクロウか。見回した先に、姿らしきものはない。
男は後悔していた。ズンズンと、怒りに任せて歩いてきたことに。いくら低くても、山だ。甘く見すぎた。方向を見失ったのを認める。
「夜明けまで、待つか」
我に返り、至極まっとうな答えを出す。明るくなれば、辺りの様子が判る。山頂目指して登ればいい。男は木の傍に寄る。もたれかかって、休むつもりでいた。
視線を感じて、幹を辿って見上げる。男と金に光る目が合う。一番下の枝に捕まる姿。形は、フクロウに思われたが、妙だった。作り物めいて見えた。
「迷ったか?」
視線だけで、フクロウに問われる。男が頷く。
「仕方がない。案内してやる」
飛び立ったフクロウを、男は追いかける。遅れると、輪を描いて飛び、急かす。
「人間は夜目がきかない」
男は訴えたが。フクロウは聞き耳を持たなかった。
白んできた空。ひときわ冷たい風。吹き抜けて、葉を揺らす。フクロウに導かれて、山を下り。都に着いた。
手入れが行き届いているとは言いがたい。自然のままの屋敷。門を越えていく、フクロウ。
門扉の前で、男は悩む。屋敷の主人を知ってはいるが。朝早い時間に、訪ねても良いものか。勝手に門扉が開く。
庭に近い、縁台に腰を降ろしていた。十代前半の若者。野垂れ死に掛かっているところを、屋敷の主に拾われた。最近、陰陽師の弟子の末席に加えられたと男は聞いている。
フクロウは、彼が伸ばした手に降りる。置物に戻った。
「直接、あなたからお話を伺いたいと思っていたところです。ぶしつけですが、使いをやりました」
奥で休む師匠に気づかい、声を落として陰陽師が尋ねる。
男は近寄り、地面に腰を降ろす。家も技も、すでに、年長の弟子に受け継がれている。超然とした雰囲気は、彼が最も似ている。
彼の師匠を尊敬しているのは、男も同じ。弟子が増えるのは、好ましいと思っていた。
家の主人に対してと、同じ礼儀を示した後。男はかいつまんで、討伐隊と鬼との戦について話した。
「そんな事。わたしがさせませんよ」
典雅で怪しげな仕草で、座り直した。陰陽師の独り言。男は微笑む。彼の師匠に似ている。
廊下がきしむ。ボサボサの髪の若者が来た。声を聞きつけて、起きてきたと判る。
「お前が視通した事が起きたのか?」
あくびをしながら、手を懐に入れて腹をかきながら訊く。若者に、男は何とも言えないまなざしを向ける。陰陽師が静かにするように合図するが気づかない。
男と目が合うと、若者は慌てる。服装の乱れと寝癖を直す。庭に飛び出して、謝罪した。
「失礼しました!」
縁台にいる陰陽師と目を合わせる。男と共に含み笑いをした。
必死に謝る若者は、男と同じ武家だ。討伐隊に志願したが。まだ、早いと叱られて、引き下がった。今、しばらくは無理と評した。
「早急に、対応せねば。後は、我々にお任せください」
奥の部屋で衣擦れ。師匠が起きてしまったと判る。師匠にも聞こえる声で、陰陽師が話す。自分に任せて欲しい。
「あっ! 肝心な事が、もう一つ。わたしの血が、病を治すために必要なのです」
「ありがとうございます。お役に立たせていただきます」
縁台から室内に戻ろうとした陰陽師と武家の若者。男は引き止める。言い添えた。振り返った彼は、納得したという顔をする。返事に、男は頭を下げた。
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