第6話 玉ころの思惑

 残された面々。視線だけで、問い掛け合う。追うか、やめておくか。たった今、鬼化した人間を。山奥に入る道を進んでいっていたからだ。


「我らは、負けたが。鬼の種族としては、勝った」


 壁を隔てた向こう側から聞こえてきた、声。全員で、主を探す。聞き捨てならぬ言葉だった。


「答え合わせといこうか。お宅らの首領が、我らの首領を討った。遺体を都まで運んでいくか、もめたろう。あいつと」


 頭だけになった鬼が、しゃべっていると知る。ゾクゾクッと、誰もがする。


 鬼が言う、あいつは。討った報告だけすれば良いと主張した。


 首領は鬼の首を持って帰らねば、疑う者たちがいると主張した。


 首領の意見に賛同する者たちが多く、鬼の首を都まで運んでいった。


「お宅らの首領が勝って、意気揚々と持って帰っていった。都の真ん中で、さらしものにするだろう」


 鬼の言うとおり、さらしものにするか、判らない。でも、帝が首実検されるのは、確かだ。


「我らの首領の頭から、病が広がる。帝も都も民もおしまいだ。ざまあみろ」


 鬼が高笑いする中。山の奥に入っていった、あいつをののしる。


 良くない事が起こるなんて、曖昧な言い方をせずに。はっきり、病と言えばいいいのに。そもそも、何で知っていた。


 誰もが思い出す。鬼の首領の客を。小屋の扉。隙間を作った。自分たちの首領が、鬼を信用しなかったからだ。


 中のやり取りは、外にも聞こえた。首領は中の様子を覗いていた。後に言う。「耳打ちしていた内容が気になる」。


 つまり、漏れているのを気づいて、連想する遊戯を変えた。宝から、病へ。だからこそ、あいつは全員を都に帰らせた。自分たちの首領の過ち。


 笑い声がやむ。ボンッ、と、音を立てて、形が崩れる。しまった、首領の頭が病を広めるなら。コイツも。考えた時には、黒い煙が広がっていた。

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