第4話 玉ころの思惑

都が危ない! 帝を、民を、守らなければ!


 体に受けた衝撃。新たに生じた痛み。意識を覚醒させる。髪を掴まれていた。引き上げられる。


 問い掛ける声。男は無言のまま。話せる体力すら、残っていなかったし。内容を聞き取れていなかった。想像はつく。反撃しないと、殺してしまう、と。


 パッ、と、離される。胸を地面に打ち付けた。男の脇腹に入る蹴り。転がった。


 再び、蹴られる。硬い感触。男は疑問がわいて、視線を向けた。刀の柄を、腹で踏んでいた。


 痛みがあるのは、生きている証拠。生きているなら、戦える。まだ、人を守れる。大勢の命が自分にかかっているのだから。おちおち、死んでもいられない。


 ふっ、と、自分の頭に思い浮かんだ言葉。男は笑う。肩の力が抜ける。余裕が生まれた。まだ、戦える、と思えた。


 体を半回転させる。目も回った。気分が悪い。吐き気がおさまるのを待つ。砂がかかった地面に、両手をつく。体を起こす。左に傾いた。紐のような物に支えられる。


 思うように、動かない体。どう、戦う。男は考える。思いつく。動かなくて良い。どうせ、向こうから近づいてくる。砂を踏む音。視線を向ける。


 乏しい明かり。膨れ上がる影。とっさに、刀の柄を握る。男は背中を預けた。張られた、紐のようなものに。弾ませて、勢いをつける。


 伸びてくる影。かいくぐって、一歩、踏み込む。男は刀を左から右へ。


 ガッ。手応え。温かい液体が顔に掛かる。特有な臭い。夢中で、刀を動かす。刀が軽くなる。弧を描き、手元に戻った。


 荒い呼吸を繰り返す。男は視線を下げる。少し先の地面。ドサッ、と、音を立てた方に。


 辺りに立ち込める、濃厚な臭い。鉄を含む。強い源は、地面の上。倒れ伏す、人。あるものがない。


 離れた場所に転がっていた。妙な物を見つける。目をこらす。人ではありえない。角が生えていた。


 無感動に見おろす、男。副首領と見分けた。倒せたのに……。むなしさが残る。

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