第3話 玉ころの思惑
「簡単な遊戯です。彼にだけ、宝の隠し場所を教えます。皆さんは、彼から答えを聞いてください」
「なんだ。簡単じゃんか。どこが、遊戯なの?」
「簡単なところが引っかかる」
遊戯の説明を、先客はする。人を介して教えるだけか。仲間内の最年少の青年が、鼻で笑う。そもそも、遊戯になっていないと、ひとつ年上の青年が指摘した。
「伝える際、その物を差し示す言葉を言ってはいけません。たとえば、そこの引き戸の中に宝がある」
たとえ話を先客がした。一斉にに引き戸の方を見る。近くに立つ一人が、戸を開く。宝はなかった。
「答えを想像させる言葉。もしくは、身振り手振りで伝えてもらいます。もちろん、彼は、宝探しに参加できません」
詳しい内容を先客が話す。皆の勘が良いか、試されると男は考えた。
先客は、皆を外に出す。扉を閉めた。脇を通り抜ける。男は気づく。わずかに扉が開いているのを。首領が信用していないと示した。
「さあ、宝のありかを吐け!」
土足のままで上がり、先客の脇に立つ。男は言い放った。
「まあ、待ちなさい。酒でも飲んで、落ち着きませんか?」
「……」
伏せていたグラスを返して、瓶から注ぐ。同じ赤い液体を。果実の甘酸っぱい香りが立つ。先客に薦められても、男は無言を貫く。
「毒が入っていますけど」
「なっ……」
済ました顔で、先客が付け加える。明かされた手の内に、男は絶句した。
「情報は、有料です。ましてや、あなたとボクは、敵対しているのですから」
命と引き換えに、宝のありかを教える。先客は伝えた。
「毒の効き目が出るまでに、時間がかかりますし。鬼の首領の次に偉い方を、倒して血を飲めば。解毒剤になりますから」
「……」
「いかがいたしますか? 皆さん、お待ちですよ」
毒入りの酒を飲まなければ、先には進めない。先客は畳み掛ける。痛いところを突く。男は思った。
グラスを手にして、男は中身を仰ぐ。果実の香り以上に、深みのある味。舌がピリッとした。
「情報料とやらを支払ったぞ。ありかを教えろ!」
グラスをテーブルに乱暴に置き、男は促す。先客は嫌な笑い方をした。
「残念でしたね。宝はすでに、売り払ってしまいましたよ。今頃は、船の上です」
「貴様!」
「もっと、面白いことを教えましょうか?」
席を立ち、先客は耳打ちをするように話す。男は言葉を失う。止められるなら、止めてみてください。先客の挑戦的な顔を見返した。
「……!」
後ろで開かれる、扉。首領の名を呼ぶ声。男は理解する。
飛んできた物。振り返らず、男は受け取る。想像したとおり。鞘を払い、一閃する。先客が倒れた。
話す気がないなら、相手の物事の進ませ方に乗ってやることはない。首領が考えたと、男は読む。
遊戯の本質は、別のところにあった。小さな声だったため、皆には聞こえなかったと思われる。負わされた荷が、男には重く感じられた。
何はともあれ。これで、思う存分、宝探しができる。
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