第2話 玉ころの思惑
薄れゆく、意識。思い出される、光景。男の生涯。もっとも、衝撃を受けた。
身の内に、よみがえる。目的をやり遂げた、高揚感。弱い自分たちが勝てた、興奮。おおっぴらに動ける、解放感。交わす会話の声も、うわずっていた。
頂点に達した時。報告された。
「ありました!」
頬が赤みをおびて、声が弾んでいた。仲間の案内で、揃って向かう。
囲うように生える、背の高い木々。生い茂る低木。絡むように生える、草花。かき分ける。獣道を見つけた。
進んだ先。一軒の小屋。狩人が使いそうな。都から奪った宝を隠すなら、都合が良い。
ちらり、男は肩越しに振り返る。木々の隙間。向こうに見える、邸宅。距離的にもちょうど良い。
扉を開いて、固まる。男を含めた、全員が。浮かれた気持ちに、冷たい水を掛けられた。
畳敷きの室内。艶のある黒いテーブル。挟んで、二脚の黒い椅子。正面の窓。黒の格子に、白の障子紙が貼られた。一部に、赤い光が映る。
見慣れぬ、室内。頭が働いているのに、ついていけない。理解できたのは、高い身分の方しか使えない敷き物を踏んでいること。自分たちの主筋にあたる、帝を侮辱していると受け取った。
「勝ったのは、あなた方でしたか。あれも大したことありませんでしたね。せっかく、力を差し上げましたのに」
怒りのあまり、全員が口を開きかけた。先んじて、聞こえてきた独り言。
向かって右の椅子に座っていた。人間が。黒の革靴。黒のスラックス。赤いジャケット。白い肌に、ブロンドの髪。
少し違う姿にまどわされて、誰もが気づくのが遅れた。自分たちと同じ言葉を話していることに。
言葉の意味が理解できた瞬間。揃って、衝撃を受けた。ほど近い邸宅で。何が起きていたのか。判っていながら、平然としていることに。整えられた髪に、乱れでもあれば。
「どうぞ、お座りください。ああ、でも、一脚だけでしたね」
向かいにある椅子を差し示して、先客は薦める。見回した。男は気づく。わずかに、目を留めて、動揺したのを。
「……一人にだけ、宝のありかを話しましょう。ボクと勝負して、あなた方が勝ちましたらね」
脚付きのグラスを、先客は手にした。持ち上げる前、中の血を想像させる赤い液体が揺れる。
縁に口をつけて、傾ける。ひと口含むと、先客は提案した。
うわっ。血を飲んだ。こいつも鬼だ。倒してきた鬼と違って、角も牙もないが。
皆が青ざめる。首領が進み出た。邸宅を含めた近辺は、全員で捜索した。探していない場所は、今いる小屋だけ。探すには、先客の勝負に乗るか。討つだけ。
「自分が勝負に挑みます」
男は手を伸ばして、首領を制止する。命を賭ける決意を伝えた。
「賢明な判断ですね。まとめる人を失っては、散り散りになって負けます」
先客が褒める。声がひび割れて聞こえた。首領より、自分を警戒していると男にも判る。光栄だが。首領を侮ると、痛い目に遭う。
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