第5話 重なった夢

 ベンチに座ってじっと谷を見つめる。


 隣に座るサナエに、香菜はどこかに置き忘れてきた夢を語る。


 ファッションデザイナーになりたい。


 子どものころ、洋服の絵を描いたり、人形の着せ替えをしたりしていた。


 置き去りにされた夢は、そのころから止まったままだった。


 今でも洋服に対して、募る不満がある。

 この色が、この裾が、この襟が……


 どうせ無理だから、と思って諦めてしまってたけれど。


 いいんじゃない、やってみても。


 イメージを描いたら、サナエは縫ってくれるかな。


 自分で縫う気にはなれなかった服。


 つくってくれる人がいるなら。

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