第85話 薄情な態度

 遥か前方に見える黒色の光の柱。ソロモンはラーズにより既に瀕死だった。故に、あれはソロモンの最後のすかしっぺ。要は自爆だ。

 もっとも、空間を支配するブラストは当然、グリムとネロの二人もラーズの機転により、あっさり脱出しており、自爆は不発に終わったわけだけど。


「離せよ! くそっ!」


 ネロがラーズを振りほどくと、地面を蹴り上げる。爆風とともに吹き抜ける土煙。

 大方、エイトの仇があっさり死亡したことに、腹でも立てているんだろうが、グリム達の目的は、あくまで復讐。特にソロモンは父ちゃんと同世代の七英雄の地位にあったもの。容易い相手ではそもそもない。確実に殺せただけで、そもそも御の字というものだろう。


「ネロ、あんた、何、らしくもなく熱くなってんのよ。父ちゃんとエイトの仇も打てたんだし、私らの目的は達した――」

「違うんだよ! 奴は知っていたはずなんだっ!」


 ヒステリックな声を張り上げるネロに、眉を顰める。こんな余裕のないネロは久々に見る。


「ネロ、お前の今考えていることを俺たちの前で話せ。話さなきゃわからん」


 ラーズのいつになく有無を言わさぬ声に、ネロは俯き気味に、


「なんでもない!」

 

 ぶっきらぼうに叫ぶと指笛を拭いて、竜のアンデッドを呼び出すと、その背に乗って夜空に飛び去ってしまう。


「もう、あいつ、どうしたのよ!」


 意味不明な弟の子供じみたヒステリーに、不満をぶちまけていると、


「おそらく、ネロは……」


 ブラストは形の良い顎に手を当てて、何かをじっとこらえているように、俯き顔で呟く。


「ど、どうしたってのよ、あんたたち!?」


 ラーズもすまし顔で、そんなブラストに尋ねようともしない。わかっていないのは、グリムだけ。そんな到底納得のいかない事態に、


「ねぇ、どう言う事か教えてよっ!」


 激烈な不満をぶちまけていた。


「もうじきわかる……と思う」


 ブラストはそう寂しそうに呟くと、やはり、姿を闇夜に溶け込ませる。

兄弟たちのあまりの薄情な態度に、暫し怒りで身を震わせていると、


「いくぞ、グリム」


 この唐変木にしては珍しく、ラーズがグリムを慰めるように、頭をぐりぐりと撫でると、一瞬で黒炎が包み、皆が利用している拠点まで転移したのだった。



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