第79話 家族想いの天邪鬼
梟の顔の怪物の最後の自白でグレイはようやく奴の死を受け入れ、このサザーランドでの戦争は事実上終わる。
敵も味方も誰も一言も口にしない。ただ、誰もがあの怪物から視線すらも離せず、息を吸う事すら忘れて凝視し続けていた。そして、胸中にある感情くらい容易に予想がつく、それはアクイドとて同じだ。あの光景を見て、恐怖を抱かない奴はある意味精神が死んでいる。
それでも、グレイを責める気には微塵もなれないのは、グレイの今の心境が嫌というほど理解できているから。
グレイは、命の重さをわかる奴だ。たとえそれが人外でも、いかなる外道でも通常、こんな命そのものを踏みにじるような行為をする奴ではない。
でも、敵はあまりにやりすぎた。己の領民になるはずのラドル人は、こんなくだらん茶番の玩具になった。何より、手塩に掛けて育てたGクラスの生徒であるエイトは、大した理由もなく殺されてしまう。しかも、それをやったのは、家族であるジルの死の引き金を引いた人物。もう怒りはとっくの昔に、グレイという器から明らかに溢れてしまっていた。
現に、この数週間、グレイは一度も笑うこともなく、日課にしていたマグワイアー家の母の元にも戻らず、この戦争の策を練っていたのだ。そう。この一連の悲劇を生んだクサレ外道を絶対に逃がさず、光の元へ引きずり出すために。
だからこそ、アクイドたちだけは、最後まで信じなければならない。あの危うくも、家族想いの天邪鬼を!
「おい! いつまで呆けているつもりだっ! 予定通り、グレイはゴミ掃除を終わらせた。あとは俺たちの仕事だろっ!」
通信具の前で喉の限りの声で叫ぶ。
『わかっているさ』
『言われるまでもない!』
通信機から次々に聞こえてくるテオたちラドル軍幹部の返答。この迷いの一切含有しない力強く決意に満ちた涙声から察するに、そもそも、アクイドや帝国兵との沈黙とは、理由が異なっていたのかもしれないな。
『このままサザーランドを制圧する! いいか、皆、外道どもに領主殿が仇は取ってくだされた! だから、余程度通り、無駄な殺しはご法度だ。総員速やかに己の使命を果たせっ!』
耳を聾するようなテオの指示を契機に、戦車隊の中から割れんばかりの鬨の声が上がる。
それはまるで、己を奮い立たせるかのように、サザーランド北外門前の荒野を吹き抜けていく。
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