第17話 初戦鼓舞 

Bクラス三回生とCクラス三回生のクラスの試合が終わる。かなりの接戦だったようで、歓声の中、Bー3クラスの代表者が額を切りながらも、歓喜の表情で右腕を振り上げていた。

 さて、次は私の生徒達の試合だ。担当教授は実際に戦うアリーナの所定の位置に設置された円柱の形状の円武台の傍で待機することが義務付けられている。


「そろそろ、時間のようだ」

「そうか。Gクラスの者達には、あまりやり過ぎぬよう伝えてくれ」


 ジークは、ミアの魔法射撃試験での【火球ファイアーボール】を目にしてから、いかにGクラスによる被害を最小限に抑えるかに思考がシフトしてしまっている。

 確かに学院でも上位同士の試合があのレベルなら、無理もないことかもしれないが。


「わかった」


 頷くと指定されたアリーナへと向かう。

 この闘技場――魔導学院第一闘技場は、卵円形、赤茶けた地面のアリーナとその全周囲を取り囲む観客席のあるスタンドからなる。

 そのアリーナの上には高さ30センチほどの三つの大きな円武台が設置されておりこの上で生徒達は試合をすることとなっている。

 

(あそこか)


 円武台のすぐ脇には、雨除けの布のチェアパラソルとその下に設置された椅子とテーブルがあった。

 ここに座って観戦し、生徒たちに指示を送るのだろう。まるで、スポーツの監督のようだな。

 そんなしょうもない感想を浮かべながらも、席に着くと正面の席で踏ん反り返っている金髪のキノコ頭の教授と視線がぶつかる。

 あれはAクラスの三回生を教えている教授――マッシュー・ムール。専攻は確か炎系の攻撃魔法。私と顔を合わせるたびに、教頭並みに何度も突っかかってくる輩だ。

 キノコ頭は椅子から立ち上がり私の傍まで来ると、


「小僧、デカイ顔をできるのも今のうちだぞ!」


 そんなフラグ立ちまくりの宣言をしてくる。

 こいつの余裕な様子は、この試合の自信だけではあるまい。私を陥れる確実な策を既に巡らせているからだろう。


「別にデカい顔をしたつもりはありませんがね。そちらさんこそ御機嫌なようで何よりです。何か良いことでもありましたか?」

「直にわかる」


 マッシューは顔を愉悦に染めて、満足気に身体を揺らしながらもA-3のチェアパラソルへ戻っていく。

 時期にわかるか。なら待つとしよう。その破滅の時までな。


『では、次の試合、両選手の入場だぁっ!!』


 司会役と思しき緑色の髪をボブカットにした耳が長い女性が、ノリノリで声を張り上げていた。

 さっきから思っていたんだが、あの司会者、妙な既視感があるな……。

 そしてそれぞれ対面の通路からこのアリーナへ真っ白で豪奢なローブを着たAー3の代表者と我がGクラスのメンバーが姿を現す。

 特大の歓声と罵声が会場を交わり震わせる。もちろん、ヒーローはAー3クラスで、ヒールはGクラスなわけだが。

 既に虚偽の噂が学校中に広まっている。最初は純粋にクリフが試験官を殴ったことに対する非難の話題だったが、次第にGクラスによる不正の疑惑へ噂は推移していた。まあ、誰がその噂を流しているかなど、考えるまでもないわけだが。


『今も仰々しく隊列を組んで行進する白服どもは、今大会の優勝候補の一角ぅ、Aー3クラスだぁ!!』


 割れんばかりの拍手や口笛が湧き上がる。


『各地の優れた血脈の天才たちを集め、帝国でも一流の冒険者や魔導士を招いての英才教育。我らが帝国の礎になることを期待されている餓鬼共さぁ!!』


 今も鼓膜を震わせる会場の熱気に呼応するかのように、緑髪の司会者は左手の先をGクラスの生徒達に向ける。そして――。


『Aー3クラスに相対するのは、学院一の落ちこぼれの集団――Gクラス! このGクラスの担任は、現在急成長しているラドルの現役領主が勤めているぅ! この領主、完璧にイカレきってやがる御仁だっ! なんでも、貧困に喘ぐラドルの民を率いて圧倒的な数と強度を誇るアムルゼス王国遠征軍に勝利したとかっ!!』


 Aー3クラスを称える声援から一転、ドヨメキへと一瞬で会場は変貌をきたす。

 私としてもさらっとGクラスの紹介を終わるか、それとも不正の事実を開示すると思っていた。こんな意味不明で、誰の益もない紹介をするとは夢に思わなかったのだ。

 そして、それは門閥貴族派の教授どもも同じらしく、背後で壮絶に慌てふためいている。


『Gクラスの餓鬼どもがどれほど強化されているかは、まったく予想もつかねぇ。だが、もしかしたら、もしかするかもなぁ!! どうだ? 貴様ら、最高でビンビンに興奮するだろううぉ?』


 観客の半分からは司会者への強烈なブーイング、もう半分は話し込んでしまっていた。

 そんな中、生徒達が私の元まで到着する。


「先生!」


 眉根を寄せて真剣な顔で私を見つめてくる生徒達。もはや彼らにこれ以上の言葉は無粋だろう。


「お前たちを見せつけてやれ!」


 口端を上げながらも、残り少ないであろう指示を出す。


「「「「「はい!」」」」」


 全員、大きく頷くと生徒達は試合会場となる円武台に上がっていく。

 

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