第12話 裏事情認識 ミア

聖暦905年12月15日(日曜日)午前8:00 魔導騎士学院統一試験日


「結局ろくに眠れなかったの……」


 学科の試験会場たる帝立魔導騎士学院本校舎校舎に向けて、眠い目を擦りながらも、ミアは足を動かしていた。


「俺は別の意味で眠れなかったぜ!」


 目の下にクマを作りながらもプルートが大きな欠伸をしていた。

 昨日、先生の授業が終了し、寮に帰って包みを開けるとそれは、各々の武器が入った木箱だった。

ミアは杖、プルートが槍、クリフは長剣、テレサがナックル、エイトが銃と呼ばれる特殊な武器。

何れも非常識な性能を有するマテリアルクラスの武器だった。

無論、全員飛び上がらんばかりに喜んだが、特にプルートは幼い幼児のようにはしゃぎまくっていた。


「あのね、僕らにとって今日の試験がどれほど重要なものか君はわかっているのかい?」

「仕方ねぇだろ。眠れなかったんだから。あーあ、今日の試験でもあの武器使えればよかったんだけどなぁ」

「馬鹿馬鹿しい! そんなの許可したら、富を持つものだけが勝利するような試験になってしまう。そんなテストで勝利して君は本当に満足なのかい?」


 クリフが口調に怒気を強める。クリフのこの発言、少し新鮮だ。


「ただの冗談だろ。そんなに怒るなよ」

「まったく君は……」


 心底呆れたように小さなため息を吐くとクリフも口を閉じる。


「テレサは随分元気そうだが眠れたのか?」

「うん。ぐっすりだったよ」

「「「羨ましい(の)」」」

 

 三人の言葉が見事にハモり、エイトがそれを見て噴き出していた。


「随分と余裕そうですわねぇ」


 眼つきの悪い金髪の少女が、取り巻きを引き連れて道の真ん中で腰に手を当てたまま仁王立ちしていた。


「それは俺の台詞なんだが……お前もとことんまで俺達が気になるらしいな」


 心の底から呆れたような声色でプルートがそんな元も子もない感想を述べる。


「なっ!? な、何で私があなた達なんかを――」

「他人にちょっかい出している暇があるなら、自身の教室で予習した方がいいと思うぞ」


 面倒になったのかプルートはメッサリナを遮ると、大きな欠伸をしつつも足を止めもせず、その傍を通り過ぎようとする。


「ちょ、ちょっと待ちなさいっ!!」


 メッサリナが声をはりあげるも、プルートは右手を上げてプラプラさせると、


「お互い頑張ろうぜ」


 彼女が到底望んでいない台詞を吐き出す。

 メッサリナの隣のぽっちゃり気味の少年が薄気味の悪い笑みを漲らせながら、


「じゃあさ、これ知ってるかな? もし君達が一人でも40番以内に入れなければ、君達の担当の教授はこの学院から追放されるみたいだよぉ」


 ミア達が到底許容できぬ事実を口にする。

 ピタッと止まるプルートの足。そして肩越しに振り返り、


「どこからのデマだ、そりゃ?」


 ぞっとする据わりきった眼光でぽっちゃり気味の男性生徒を睥睨していた。


「あらー、やっぱり知らなかったんだぁ。あの教授、身の程知らずにもデルタとかいう蛮族の領主になったらしいんだけどさ、教授職を失ったら、その地位も同時に剥奪されるんだって。つまりさぁ、君らの一人でも40番以内に入れなければ、彼は破滅ってわけ」

「ざけんなっ! そんな出鱈目、信じられるかっ!」

「嘘だと思うなら、学園側に直接聞いてみたらいいんじゃない?」

「くそっ!」


 プルートは生徒達を押しのけると校舎に向けて走りだしてしまう。


「僕らも行こう」


 らしくもないエイトの怒気の籠った声に、ミアも頷き校舎に向けて脚を動かした。


「それは本当なのか?」

「……」


 昇降口では、とんがり帽子を被った青髪の美しい女性にプルートが詰め寄っている最中だった。

 あれはレベッカ先生。ミア達Gクラスに親身になってくれた数少ない教授の一人だ。


「その様子だと真実なんですね?」


 クリフの感情の籠ってない問いかけに、レベッカ先生は下唇を噛みしめながらも、小さく頷いた。


「でもなんで領地まで没収になるの!? わたくしのお父様、貴族だけどそんなことはないよ!」


 テレサがレベッカ先生の両肩を掴むとブンブンと揺らして疑問を投げかける。


「それは……言えない。だけど、私達は君達に賭けるしかない。そう考えています」

「行こう、テレサ」

「で、でも――」

「レベッカ先生に怒ったって無駄だっ! どうせ、いつものくだらない貴族のしがらみだよ!」


 吐き捨てるようにクリフは叫ぶとテレサの手首を掴み、引き摺るかのように指定の教室へ歩いていく。

 ミアたちも貴族至上主義のクリフとは思えぬ発言にどこか圧倒されながらも教室へ向かった。


 ミアたちが教室に入ると一斉に視線が集まる。そこにはSクラスのメンバーが揃い踏みをしていた。 

 他の生徒のような蔑む視線ではない純粋な敵意。それがミア達に一斉に向けられている。

 ロナルドもアランも既に教室にいたが、ミア達を一瞥するとすぐに本に目を通し始めた。そして、それは他の生徒達も同じ。唯一、赤髪の少女だけはこちらに視線すら向けず、頬杖をついたまま外の景色を眺めている。


「絶対に勝つぞ」


 プルートがボソリと呟き、ミア達も無言で頷き、指定された席に着く。


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