第7話 黒色の扉
帝都の第四区――ライゼの最南を流れる大河の
ここは
この店は午前7時から弁当を売り出している。その弁当は育ち盛りの男子生徒がお腹一杯になる量がありながら、値段も手ごろ。何より、頬がとろけそうなほど美味かったのだ。忽ちライゼの消費を下支えしている魔導学院の学生たちのハートをガッチリ掴み、数時間待ちの人気の店舗となる。
ただ、ストラヘイムのサガミ商会の料理の非常識な味を知っているミア達からすれば、この、
数時間並んで、日替わりメニューのチーズハンバーグ弁当の並み5つと特盛3つを受け取り、近くの公園へ行く。
公園には緑髪の童女と白髪の童女の二人と一緒に遊んでいた黒髪の童女がいた。
「ほら、約束の弁当だぞ」
プルートが購入した特盛弁当3つを黒髪の童女たちに渡すと、
「ご苦労なのじゃ!! 弁当、弁当、弁当なのじゃ♬」
奇妙な鼻歌を口遊みつつも、幸せそうな顔でくるくると回る黒髪童女――ドラハチと、
「わぁ、美味しそうデシ!」
「うん、きっと美味しいよ」
目を輝かせる二人の童女――ハクとシーナ。
彼女達はサガミ商会のマスコット的存在であり、ストラヘイムやこのライゼでいつも一緒に遊んでいる。
早速、弁当の蓋を開けて頬張り始めようとするドラハチに、
「ドラちゃん、食べたばっかりだし、お昼まで待って一緒に食べようよ」
「うむ、わかったのじゃ」
しょんぼりと指をくわえて腹をくーと鳴らすが、ドラハチは弁当をいずこかに収納する。
ハクとシイナもそれに習い、腰に掛けてあった小さな魔法の鞄に収納した。
「じゃあ、転移をお願いするぜ」
「いいぞ。約束じゃしな」
ドラハチが右の掌をミア達に向けると足元に展開される魔法陣。そして景色は一瞬でストラヘイムへと移る。
「午後五時の鐘がなるときまでにこの広場に集合ってことでいいか?」
「わかったのじゃ。お土産楽しみにしているのじゃ」
右手をブンブン振ると、ドラハチたち三人は人混みへと駆けて行ってしまった。
「時間もない。俺達も迷宮へ向かおう」
プルートの提案に軽く頷き、ミア達はクリカラへ向けて歩き出す。
――クリカラ第四層。
「【
プルートの言霊と共に炎が吠える。炎の津波は瞬きをする間もなく二本頭の犬を飲み込み、その身体を包むと勢いよく燃え盛る。忽ち、双頭の犬は真っ黒な炭へと変わってしまう。
「これで4階層の攻略もほぼ完了したし、そろそろ戻ろうよ」
数時間の冒険で4階層のかなり奥まで到達する。正直言って本日遭遇した魔物は大して強くもない。危なげなく倒せるのはもちろん、少々、物足りなくも感じていた。
だからだろう。
「もう少し先に進みたいの」
そんな身の程知らずなことを口にしてしまったのは。
何事も慣れてきた頃が慢心しやすく最も危険。そう先生から口を酸っぱくして教えられていたのに……。
「そうだなぁ。まだ時間もあるしもう少しだけいいんじゃねぇか?」
「キリもいいし五階のセーフティーポイントまで行ってから終わりにしようか」
「賛成ぇ!」
プルートにクリフ、テレサが次々に賛成し、
「うーん、そうだね。もう少し進もう」
チームリーダーのエイトも同意しミア達は第四層の最奥へと向かう。
「なあ、前ってここにこんな部屋ってあったか?」
眉を顰めるプルートの視線の先には見たこともない黒色の扉が鎮座していた。
「僕も記憶にないよ。ここって確か袋小路になってたと思ってたけど?」
「もしかして隠し部屋ってやつ!?」
好奇心たっぷりの眼差しで扉を凝視するテレサに、
「多分な。部屋の中にあるのは、噂に聞く宝箱か……」
プルートが相槌を打つ。
先生が連れてきた現役冒険者のアクウさんとサトリさんから迷宮の講習は受けている。
何でも迷宮内にはいくつかの隠し扉が存在し、その中には宝箱と呼ばれる貴重な宝物が収められていることがある。もっとも、トラップ等の危険性もあるから、発見しても下手に入ろうとせず、直ぐにギルドに知らせるのが最良。
「いずれにせよ、今日の目的は金銭の獲得が目的だ。結構稼いだし、危ない冒険をする必要はないよ」
「そうだねぇ」
少し残念そうに頷くテレサに
「ミアもなの」
ミアも賛成する。
そうだ。今日ミア達がこのクリカラに来ているのは、あるアイテム作成の材料費獲得のため。ここで危険を冒してまでこの扉を調査する意義はないのだ。
「満場一致ってことで。この部屋の存在はアクウさんに後で報告するってことで、俺達は先に進もう」
「あーあ、この扉の中が透けて見えればよかったのに」
テレサが徐に闇色の扉に右手を触れようとする。
「おい! 軽はずみに触れるなっ!!」
いつにないプルートの切迫感たっぷりな叫び声。
「ふぇ?」
テレサはビクッと全身を硬直させて慌てて引っ込めようとするが、時すでに遅し。黒扉の表面には血のように赤い魔法陣が浮かび上がり、それらがゆっくりと回転しているところだった。
「た、退避――!!」
忽ち、闇色の光は周囲のミア達をその意識ごと飲み込みんでしまう。
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