第23話 新領地へ
次の日、私達は、ストラヘイムから、新領地である北方領地――旧ダビデ領へ馬車で出発した。
今回は、初の新領地への訪問。統治者として、低くみられることだけは避けねばならぬ。商会の幹部数人と、私の私兵を連れて行くことにした。
もっとも、私兵といっても、万年人材不足である私には、アクイド達、
サテラが同行を強固に主張したので、自動的にシーナ、ドラハチもついてくることになる。
問題は、アリア。彼女は、目下、【ラグーナ】から狙われている。何よりまだ弱いアリアを残して、攫われでもしたら面倒だ。そこで、彼女も含めて連れて行くことにした。まあ、あくまで領地につくまでだが。
ちなみに、
シルフィの現ステータスは、円環領域でも解析できず不明だが、古代竜のアンデッド時でも、ジュドとカルラを子ども扱いする能力はあったのだ。仮令限界まで劣化したとしても、商店の護衛くらい全うできるだろう。
ライゼ下町協会の警護の要請につき、シルフィは渋るかと思っていたが、ニンマリ笑って快く了承した。あの町にはジークもいるし、どうにも、何か企んでいるような気がしてならない。まあ、単に酒を飲みたいだけかもしれんが。
さらに、念には念を入れ、【蟲毒】により、獲得した三体の魔物のうちの
ともかく、スパイはしっかりした奴だし、今や完全人型化し、外見上人と見わけがつかなくなっている。護衛の任務も無事に全うしてくれるはずだ。
ちなみに、
「さあ、子供はもう寝る時間だ」
アクイドが手を叩くと、
「じゃあ、今晩の訓練だよ」
「はーい!」
「そうね」
サテラがシーナの手を繋ぐと、アリアを促し、テント内へ姿を消す。
ゼムの件で私は、仲間に一切の自重をすること止めた。私の家族となったものは、とことんまで鍛えてやる。シーナも同じだ。毎日、少しずつだが、魔法を覚えさせ、魔力消費の訓練を毎日欠かさず行わせていた。
「お前達はいいのか?」
今も最近サガミ商会が開発したオレンジジュースをクピクピ飲んでいるロシュに尋ねる。
「俺達の訓練は、後で団長と一緒にやるからいい」
最近、ロシュとリアーゼの二人は、アクイドから魔力消費の訓練を受けており、着実に実力をつけてきている。
「で? 今度は何が知りたい?」
「昨日の続きから頼むよ!」
「了解した」
二人がテーブルに着き、羊皮紙とペンを持つと、他の団員達や、同行した商会員たちも集まってきた。
この
「これがワクチンの仕組みだ。理解したか?」
「うーん、その細菌やウイルスってのがどうにもしっくりこない」
「まあ、目には見えぬからな。そういうものとして理解しておけ」
「わかった!」
腕時計の針は既に、22時を示していた。そろそろ、キッズ達は寝る時間だ。
近くで酒を飲んでいるアクイドに視線を向けると、大きく頷いてくる。
「もう結構な時間だ、いくぞ、ロシュ、リアーゼ」
アクイドは立ち上がり、親指の先をテントに向ける。
「うん。そうだね。グレイ、また明日、教えてよ」
ロシュとリアーゼは頷くと、立ち上がる。
「うむ。おやすみ」
「おやすみなさい」「おやすみ」
テントに入る二人の後姿を見守っていると、視線を感じる。
「どうかしましたか?」
「貴方は不思議な方です」
色黒の肌、黒色の長い髪を腰まで垂らした女性が、ぐっすりと眠っている赤ん坊を抱きながらもそんな感想を述べた。
彼女、リタは、私達が保護した山の民――ラドル人の女性であり、あの事件の数週間後、健康な赤ん坊を無事出産した。
「そうですかね?」
「ええ、人種、大人子供の区別なく、あなたのような方には初めて会いました」
「それはそうでしょうよ。こんな変なのが何人もいてたまりますか」
隣で話を聞いてた旅団のメンバーが、陽気に私の背中を叩く。
「帝国でも有数の商会を経営しているし、魔法まで自在に使えるしな」
「商業ギルドの幹部から一目置かれ、様々な高度な知識を有し、陛下への謁見が許される」
「改めて考えると、確かに意味不明だな。というか――」
「「「「バケモノ」」」」
見事に皆の私に対する感想がハモる。
まったくもって、失礼な奴らだ。最近、こいつら、どんどん容赦がなくなっているようだな。まあ、それだけ打ち解けてきたといえるのかもしれないが。
「もうじき、貴方の故郷につきます。私達は、ラドル人に対し少なからぬ因縁がある。私達と同行すれば、裏切者扱いをされるかもしれませんよ? 今ならまだ間に合います。引き返してはいかがですか?」
アクイドが、既に彼女に旅団の過去の因縁も含めて話はしてある。
私は、新領地を一大商業地区とするつもりだ。そうなってからでも帰国するのは遅くはないはず。
「そうかもしれません。でも、少しでも早くあの人に故郷の地を踏ませてやりたいんです」
特にリタ達は小料理屋経営の夢のため、サザーランドに夜逃げ同然で出稼ぎにでたという事情がある。同じラドル人からすれば、裏切者に等しい。そのリタが、私達、帝国人の
「決心は固いのですね?」
「はい」
「では、私からはこれ以上、何もいうことはありません」
リタは、赤ん坊の頭を愛しそうに
「それに、貴方達は、今までのアーカイブ人とは違います。きっと、皆を良い道へと導いていただける。そう信じていますので」
そう力強く宣言したのだ。
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