第22話 賢者訪問
私は学生として受験したはず。なぜSクラスの担任になる? こんな道理に合わない人事をして、問題とならぬはずがない。
「不良賢者、そこんところ、どうなんだ?」
「不良か。お主にだけは、口にされたくはない
「で? どうなんだ!?」
無駄口を叩く不良賢者に、疑問の言葉を叩きつける。これ以上、引っ掻き回されるのは御免なのだ。
「『グレイ・イネス・ナヴァロ男爵に、帝立魔導騎士学院Sクラスの担当を命ずる。四年間、無事勤め上げれば、もれなく卒業資格もついてくる。精々気張って、我が帝国のために働いてくれ!』、これが陛下からの御言葉じゃ」
片頭痛がしてきた。
「あのな、それって微塵も理由になってないだろ?」
「そういわれてもな。陛下のお考えなど儂ごときにはとても、とても」
大げさに首を振るジークに、私はこの非常識な人事の元凶が誰かの予想がついた。
「お前、本当に何を
「じゃから
この野郎、全ての責任を皇帝に押し付けやがった。
「それって、辞退できるのか?」
「できるわけがあるまい。陛下の
くそ、いいように、あしらわれている気がするぞ。
「なぜ、私の名がシラベなのだ? というか、どこでその名を聞いた?」
「お主がそう名乗っているそうではないか。ならば、儂が知らぬわけがあるまいて」
ほっほっほっと、どこぞの印籠持参の天下の副将軍のような勝利の高笑いをするジークに軽い殺意が
シラベは私が商業ギルドで使用している名。大方、私を調べ上げた際にでも、その名を
「なぜ私の名前を非公開にする?」
「ほう、意外じゃな。公開して欲しかったのか?」
「疑問を疑問で返すな。
「お主の入学に断固として反対する者がおってな。カモフラージュする必要があったわけよ」
「また、取ってつけたような理由を吐きやがって」
私の入学を反対する者がいる。その事実自体は
だからといって、教師の
「誓ってもいいが、儂は一切、嘘は言うとらんよ」
「全て真実を話しておるわけでもなかろうが!」
「まあ、そうともいうな」
この野郎――サラッと答えやがった。
「話にならんな」
私は、あくまで学生として受験をすることを、了承したに過ぎない。教官の真似事をすることなど想定外もいいところだ。
今までは最大限、我慢してきたが、これ以上、奴らの一方的で独善的な指示など、付き合う義理はない。何より、私は元来、我慢強い方ではなかったはずだ。
「当学院は、お主を
「はっ!
ジークは、勝ち
「魔導騎士学院の教授には、帝国に点在するあらゆる書庫への無条件の入場、閲覧権が認められておる」
そう、言い放つ。
「あらゆる書庫への無条件の閲覧権……」
くそ、やられたな。書物は、個人の思考の表出であり、人類の有する最も貴い至宝。
図書が収められている帝国内の全書庫への入場閲覧権は、いくら金を積んでも、手に入れたいと思う類のものだ。
「どうじゃ? それでも辞退するつもりかの?」
「それに答える意義があるのか?」
私の返答に、ジークは満足そうに大きく頷く。
「グレイ・イネス・ナヴァロ男爵殿、引き受けてもらい、学院を代表し感謝する」
「心にもない演技を止めろ。実に不愉快だ」
顔を上げたジークの顔は、歪んだ笑みで
「そうむくれるもんじゃない。魔導騎士学院の教授はいいぞ。権威も高く、高給じゃしな。独自の学院設立権を持つから、領地でも学院を建てれば、国が保護してくれるし」
領地に、学院を建てるか。確かに面白い試みではあるな。
それに、どの道、帝国の改革のためには、若い力を育てる必要があったのだ。これは、恰好のモデルケースとなるかもしれん。
「いつから着任すればいい?」
「再来月の四月初めじゃ。教授の就任と同時に、お主は子爵に
この短期間で、また爵位が上がるか。これは貴族制度の
「了解だ」
「ほれ、これが、教授を証明するペンダントとローブじゃ。いずれも、再支給は不可能じゃから、なくすなよ」
ジークは、テーブルに細工を施した黄金に輝く小さな金細工と、布の袋を置くと、もう用はないと、
まったくもって、勝手な奴。だが、悔しいがこの度は確かに私の目的にとっても著しい利がある。精々、利用させてもらうことにしよう。
「さて」
合格発表も確認したし、明日からまた、新領地へと旅に出る。最低限の旅の用意は必要となろう。
それに、現在、
周囲に響く、釘を打ちならす音を聞きながら、私も宿を後にする。
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