第20話 合格発表
それから、丁度、一週間後、ライゼ下町商店街全47の老舗との契約は締結された。
契約の形態はフランチャイズに似せてはいるが、全くの別ものだ。今回は実験的意味合いも強く、手探りであることから、細かい箇所は話し合いで順次構築していけばよかろう。
アリアの根気強い説得のおかげもあり、各老舗からも大きな反対の声は上がらず、スムーズに契約できた。
ただ、数企業は既にウエィストと契約を結んでしまっていたので、契約の破棄とギルド規定による違約金を納めて調停に入ることになる。
もう少し遅れたら絶望的だったが、三契約とも契約締結したばかりであり、一定額の違約金さえ納めれば契約は解除できる。これはギルドが決めたルールであり、奴らも従わざるを得まい。
ちなみに、実際の契約内容は次の通りである。
――――――――――――――――
〇サガミ商会とライゼ下町協会との業務提携契約
・サガミ商会は、一定の食材、資材等の材料や商品をライゼ下町協会に原価+5%で提供する。
・サガミ商会は、下町協会に一部のレシピや技術指導を行う。
・ライゼ下町協会所属の各企業は、サガミ商会へ利益の30%を支払う。ただし、いかなる状況でも各企業は予め決められた額の利益を受けることを妨げない。
・サガミ商会は、ライゼ下町協会の各企業の警備及び、その他
・以後、ライゼ下町協会は、サガミコンツェルンに加わり、その商標を加える。
――――――――――――――――
ライゼ下町の企業四七社は、以後、広い意味でサガミグループ企業となる。
契約内容は
工場からこのライゼまでの輸送手段、常置警備員の数の決定的不足等、まだまだ考慮する問題は多い。以後の修正は必須だが、今はこれでいいと思う。
本日は帝立魔導騎士学院の結果発表のため、学院校舎に向けて丘を登っている最中だ。
「アリア、よく取りまとめたな」
「うん! ありがと!」
いつもの調子に戻ったアリアに、
(グレイ様、アリアちゃん、すっかりいつも通りですね?)
(うむ、いつまで持つかは知らんがな)
(アリアちゃんならきっと、大丈夫ですよ)
(だといいが)
(もう、グレイ様はもっと素直になった方がいいと思うんです)
プーと頬を
「そろそろ、着くぞ」
正直、合否などどうでもいい。不合格となっても、あの皇帝のことだ。他の条件で
校門前は、数百人の受験生でごったがえしていた。
阿鼻叫喚の受験生達を視界に入れ、アリアはまるで自動機械のように動きがぎこちなくなる。
アリアの成績はおそらく上位の成績だし、私のように無茶なアドリブはかましていない。これだけでも十分合格は確実だが、何よりあの手紙の変態学園長が、アリアを落とすはずがない。内情を知っている私としては、今すぐにでも教えてやりたいのが本心だが、それをすれば後々面倒なことになる。何より、この手の緊張も受験の
「アリア、少し落ち着け」
「アリアちゃん、深呼吸、はい!」
「う、うん!」
すーは、すーはと数回繰り返す。
「じゃあ行こう」
歩き出すが、駄目だ。足と手が同時に出てしまっている。
隣のサテラが肩を竦めてきたので、私も大きく息を吐き出し、アリアの後に続く。
人込みを
その三人とも私には、見覚えがあった。
銀髪の美少年――ロナルドは、私と視線が合うと喜びを
「入学後、よろしくお願いします」
ちっ! なんだ、結局、私は合格してしまったようだ。これでまた数年間、拘束されることになる。
「ああ、君達も合格、おめでとう」
その嬉しさに満ち満ちた顔を見れば、聞くまでもない。
「合格したら、バシバシ、鍛えてくれよ!」
アランが、右手を軽く上げると、金髪の幼女がマジマジと私を見つめてくる。
「な、なんだよ?」
「貴方と学院側、意地が悪いの」
そんな意味不明な
「もう、ミア、失礼なことを! ごめんなさい!」
「いいさ。行ってあげなさい」
何度も謝罪の言葉を繰り返すロナルドを促す。ロナルドは済まなそうに、会釈して、小走りで人混みに姿を消す。
「たっく! 俺を置いてくなよな。じゃあな」
肩を
「グレイ様、また無茶したんですね?」
案の定、サテラがジト目で私を見ていた。
「そのつもりはないんだがね。だが、多少、目立ってしまったのは、否めないかもしれんな」
「グレイ様の場合、絶対多少じゃないと思うんですけど?」
「そうか?」
「そうですよ」
「ねえ、早く行こう!」
アリアに促され、今度こそ、私達は人込みを掻き分け、合格者番号が張り出されている大掲示板前まで行く。
どうやら、クラス別に張り出されるらしい。
アリアとサテラの番号はあるようだな。彼女達は――。
「あった……あったよ! グレイ、サテラ!!」
「私も――あったよ! グレイ様、私もありました!!」
「お前達は、同じ『Sクラス』のようだな。二人ともよかったじゃないか」
「はい!」
「うん!」
迷惑な話だが、ロナルドの発言からも、私が合格しているのは、まず間違いあるまい。
話の流れから、ロナルド達と同じクラスなのだろうが。
ふむ、ロナルド達はSクラスのようだな。つまり、Sクラスのはずなのだが……みあたらんな。
「グ、グレイ様……ありました」
「うむ、済まぬな。どこだ?」
「あ、あそこです」
ぎこちないサテラの声色に、眉を顰めながらも、その指先へと視線を移す。
「はあ?」
それを網膜が映し出し、私は素っ頓狂な声を上げたのだった。
そこには――。
『S(特別クラス)担任――344番――シラベ・イネス・ナヴァロ男爵』と記されていたのだ。
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