第9話 事件後の団欒

 クラマと共に、リバイスファミリーの屋敷へ戻ると、居間いまでは丁度夕食中だった。


「どう、シーナ美味しい?」

「うん。美味しい」


 小さく頷きつつも、慣れない箸を使い料理を口へと持っていくシーナ。料理を口に入れると笑顔に変わる。


「ドラちゃんはどう?」

「美味いのじゃ!」


 ドラハチも元気よく答えると、フォークを口に持っていき、幸せそうに頬張ほおばった。二人とも見ていてきぬ食べっぷりだな。


「よお、グレイ、遅かったじゃねぇかっ!」


 穀潰ごくつぶしドラゴン二号――シルフィは、アルコールで真っ赤に顔をめながらも、さもご機嫌そうになべをつついていた。

 私の苦労もしらんで、こいつの幸せそうな顔を見ていると、無性になぐりたくなってくるな。

 というか、お前、よくここがわかったな。


「グレイ! クラマっ!」


 振り返ると、目尻に涙をめた金髪ツインテールの少女に、められてしまう。


「グレイ様、クラマさん、何があったのかは知りませんが、アリアちゃん、本気で心配してたのですよ!」

「ああ、わかってるさ。すまなかったな、アリア」

「お嬢様、申し訳ございません」


 背伸びをし、その後頭部を撫でる。そして、クラマと鉄板の言い訳をいいつつも、どうにかなだめた後、席に着く。


「シーナ」

 

 サテラに、優しく指示され、緑髪の童女――シーナは、トテトテと私の前までくると、


「グレイ、お兄ちゃん、はい」


 たっぷりられた器を渡してくる。


「ありがとう、シーナ」


 頭を撫でると、嬉しそうに微笑んだ。そうだな。やっぱり、子供はこうでなくてはいかん。

 それに、改めて思い返せば、昼から何も口にしていない。滅茶苦茶、腹が減っていたのだ。

 サテラからはしを受け取ると、私も、好物の風牛の肉を口に入れる。



 翌日、クラマとアリアが、【リバイスファミリー】の全員に、当面、私ことグレイ・イネス・ナヴァロの庇護下ひごかに入ることを宣言せんげんした。

 相当数の反対者が出るとんでいたのだが、目の上のたんこぶだった【フィーシーズファミリー】摘発の噂が朝一で、宿場町――ルネット中に広まったこともあり、すんなり受け入れられた。逆に、気色悪いほど、キラキラした目で私達の戦いについて根掘ねほ葉掘はほたずねられる始末しまつだ。

 心が壊された子供達は、普通の生活を送れるようになるまで、サガミ商会で面倒を見ることになった。

 ともあれ、ルネットは、一時的に解放されたに過ぎない。直に、【ラグーナ】の別の傘下のクズがこの地に現れ、圧政を強いることは目に見えている。

【リバイスファミリー】は、総員四八名程度に過ぎない。数百単位の【ラグーナ】の面々を退けられるほどの力を今は有していない。早急に、強くなってもらうしかない。魔導書がまた必要となるな。

しかし、今後も【ラグーナ】からの離脱者に一々魔導書を与えていたのではきりがない。何より、信用性に問題がある者に、魔導書は与えたくはない。

いっそのこと、軍事面の科学の強化をするか?

魔法しかないこの世界では、銃火器はまったくの未知。【火球ファイアーボール】の連射れんしゃで喜んでいるくらいだ。魔法師がいらぬ銃火器は、途轍とてつもないアドバンテージになることだろう。

 ただ、私は死の商人にまで身を落とすつもりはない。扱うのは私の新領地と【リバイスファミリー】等、私の直轄となった者達のみ。開発も、可能な限り情報漏洩は避ける態様が好ましい。当面は、サガミ商会や新領地のみで行うこととすべきだろう。

 ともかく、この軍需事業の開発はすぐにでも取り掛かろうと思っている。


「で、お前達がかくまっていた子供が、およそ、一〇〇人近くも居ると?」

「へい。先代が使っていた別荘で共同生活していやす」


 ジルが、神妙な顔で頷く。

 昨晩、クラマから【リバイスファミリー】の秘密を打ち明けられる。

 ジル達大人の総意により、仕入れた奴隷が、子供である場合【フィーシーズファミリー】の目を盗んでかくまっていたらしい。

 シーナはその容姿の端麗さに加え、緑色の髪と長い耳という独特の容姿ゆえに、奴隷商の間でも目立ち過ぎた。既に、【フィーシーズファミリー】に特定されていたのだ。故に、誤魔化すのが難しいとの判断で、売却を決断したようだ。


「そうか。辛い役目、今までご苦労だったな」

「……へい」


 ジルの頬を涙が伝い、ゴシゴシとあわてて右腕のそでで拭く。


「あれ? くそっ!」


一向に、止まらない涙に、何度もジルはぬぐい続けた。


「アリア、お前の家族達は、先代の意思をずっと守っていたようだぞ」


 先代とやらの評判については、ハクロウ男爵から十分すぎるほど聞いている。

清廉潔白、品行方正、弱きを助け、悪をくじ大任侠だいにんきょう。こんなおよそ、裏社会にいてはいけないような御仁が、【リバイスファミリー】の先代だ。

 その先代は、自らの意思を最後まで曲げず、あっさり死んでしまった。残されたその部下たるクラマやジル達の苦悩は想像を絶したはずだ。

 全てを救えぬことは、道理であり絶対の真実だ。故に、結局彼らが選んだのが先代が好きであり、最も弱く未来がある子供を救うこと。悩みに悩んだ末、彼らは子供達だけを救う選択をしたのだ。

 

「うん」


 隣のアリアも顔を両手でおおうと、さめざめと泣いていた。


「サテラ、ストラヘイムに屋敷を一軒いっけん、買い取ってくれ。当面は、【リバイスファミリー】の面々と子供達は、そこで生活してもらう」


 壮絶に弱い【リバイスファミリー】の者達が、このルネットにいるのは自殺行為に等しい。まずは、アクイド達に徹底的にきたえさせ、一定のレベルに到達してもらう必要がある。 

再度派遣はけんされるであろう【ラグーナ】傘下のファミリーをはいし、このルネットの裏を仕切らせるのはその後だ。


「はい。速やかに実行に移します」


ふむ、この際だ。例の計画を進めるとするか。 

 そもそも、私があらゆる事項につき、個別に教えていたのでは効率が悪い。サガミ商会の職員だけの教育機関が是非とも必要となっていたのだ。子供達を、その第一号とし、実験的に導入すればよい。

 まあ、それもこれも魔導騎士学院の試験を受けてから。多少、時間を浪費してしまったし、明日の朝にでも、学院の所在地である第四区へ向けて出立することにする。

遅れずに受験しさえすれば、私の責務はそれで終了だ。あとは、合格だろうと、不合格だろうと好きにすればいいさ。

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