身体は児童、中身はおっさんの成り上がり冒険記

第23話 事件の契機

　帝国の最北端――ルドア大森林。

「不死竜の三分クッキングぅ～！

　始まりは～、甘酸（あまず）っぱい腐敗（ふはい）の味ぃ♬　

　竜の死体をここにぃ♪」

　真っ黒なスーツに、シルクハットを被る男は歌うように、右手を挙げると、十数メートルもなる真っ青な鱗（うろこ）の美しい竜（ドラゴン）の死体が、地面からわき出してくる。

「竜の死体に、塩、胡椒、砂糖を少々加えますぅ♩」

　男は懐（ふところ）から粉末（ふんまつ）を取り出すと、竜の死体に振りかける。

「一〇〇度で、良く煮込んでぇ♪」

　竜の全身が紫色の毒々（どくどく）しい液体に包まれると、コポコポと泡立（あわだ）ち始める。

「三分ほど待ったら、以下省略――――はい、死竜の出来上がりぃ♫」

　両の眼球が溶け、眼窩の奥に赤黒色の光が灯り、ゆっくり、その美しい青色の巨体を起こす。

「相変わらず、悪趣味な奴だ」

　大樹に背を預け、闇と同化した黒髪をオールバックにした片眼鏡の男が、大きな欠伸（あくび）をしつつも、そんな感想を述べる。

「あー、ラーズっち、この竜ちゃんありがとさんさん♫　ピッチピチしてて、最高に勃起しちゃう竜ちゃんだったよぉ♪」

「この世界の（・・・・・）人間（ゴミカス）共にそこまでする必要はあるのか？」

「もちろん、蟻んこ君達じゃなくて、あの英雄気取りの蛆虫（うじむし）共への撒（ま）き餌（え）だよぉ♬」

　シルクハットの男の瞳に一瞬垣間（かいま）見えたのは、堪（こら）えきれないとびっきりの炎（ぞうお）。

「そうノコノコ出てくるもんか？」

「グリムの予想ではそう♩」

「なら、早くしな。そろそろ俺も限界だ」

　黒髪の男の瞳と髪が真っ赤に染まり、全身から流れ出す濁流（だくりゅう）のような濃密な紅のオーラにより、大気が歪み、破裂音を上げ始めた。

「オー怖い、怖い♬　ご心配なくぅ、一万ものアンデッドとこの不死竜なら、蟲君達では討伐は不可能。まず間違いなくあの汚物共（おぶつども）が出張ってくる」

「出てこなかったら？」

「う～ん。帝国には、さくっと滅んでもらっちゃう♡」

「いいだろう。わざわざ俺を動かすんだ。もし、期待外れだったら――」

　その言葉を最後に、黒髪の男は姿を消す。

「さあ、皆ぁ～、お目覚めの時間だよ!　腹が減ってるよねぇ？　ひもじいよねぇ？　食い散らかしながら、はい、前進！　はい、前進！」

　真っ黒なシルクハットの男の周囲から這い出す、不死竜を含む、数十体の動物の骨、骸骨（スケルトン）、腐敗者（ゾンビ）、不死の魔法使い（リッチ）共。

　湧き出た無数の不死者達は、隊列を組んで、森を南下していく。