第16話 到底戦いとは呼べぬ茶番
シーザーの振り下ろした剣を、
私は、奴の動きに若干の違和感を覚えながらも、
大気中に出現した無数の水の
「温いわ!!」
やはりか。今の奴の動きにつき、目で追うのがやっとだった。この動体視力は、今の私の現状のステータスの状態での予測とぴったり合致している。だからこそ、おかしいのだ。今私は、
つまり、【小鬼殺し】の称号の効果は
戦いの中で称号を発現させるのは、骨が折れるな。というか、そこまで遊ぶ必要もあるまい。私は慎重派なのだ。
この度は危険を冒す必要はない。なにせ、丁度よく、切れ味が抜群の剣がいるからな。少々、扱いが難しいのが玉に瑕だが、目の前の単細胞程度なら、どうにでもなる。
私は、構えを解く。先ほどの動作で、こいつの底は見えた。もはや、イレギュラーでもおきなければ負ける要素は何もない。
「おい、
「今更、命乞いをしても無駄だ。貴様らは、固くて不味そうだからな。ひき肉にして眷属共の餌にしてやる」
闘争中にまで食欲を優先させるか。今まで
私は、円環領域で、この部屋の広さと構造をミリ単位で
「元来、弱者をいたぶる趣味は私にはない。だが、中途半端に力があるお前も悪いのだぞ」
【
あとは、私の手足次第。
「シーザー、好きに戦え」
どの道、今日知り合ったばかりのシーザーと信頼関係も糞もない。シーザーには精々、私の剣としての役割を
「好きに戦えって、お前……」
ちらりと、私に困惑の視線を送ってくるシーザーを平然とスルーする。どうせ、私の意図など、嫌というほど直ぐに理解することになる。
数十の【
◇◆◇◆◇◆
いくつもの【
「無駄だと言うとろうがっ!!」
激高する
「どこを狙って――」
水の
「ぬ!?」
真っ白な蒸気により視界が遮られ、戸惑いの声を上げる
「シーザー、三歩だ」
それだけ叫ぶと、【
「うぉ!?」
素っ頓狂なシーザーの声。まったく、その程度で動じるな。しっかり、私の剣の役目を演じてもらいたい。
「ぐがぁ!!」
見込み通り、シーザーが、
「下郎共がぁっ!!」
「無駄だ」
いくつもの【
炎の柱と【風壁】の風の壁により、蒸気は大量に貯まり、充満する。そう簡単に、蒸気は振り払えない。おまけに――。
【
もう、シーザーも察しがついたろうし、何歩か叫ぶ必要もなかろう。
【
「ぐごっ!」
左前方から迫ったシーザーにより大腿部から切断され、バランスを崩し、
さて、そろそろ締めだ。
【
「ぐがあっ!」
仮にペーパーナイフ程度の威力だったとしても、全身をくまなく切り刻めば、想像を絶する痛みだ。
痛みに
シーザーの長剣が、
「お前にもう少し、知恵があれば、多少はてこずっていたろうよ」
自らよりも格下だと思っていた相手に、何もできず、一切の抗いを許されぬ死。喜べよ。お前にとっては、最低な死……そう思ってやることにしてやる。
剣を片手に、十分に警戒しながらも
十分な距離を近付いたシーザーは、
『許さぬ』
ぞっとするような
それは、
――バキ! グシャ! ベゴッ!
「シーザー、まずい!
全身を駆け巡るとびっきりの悪寒に、鳥肌がプツプツと生じていた。
「了――」
シーザーの言葉は最後まで続かず、私のすぐ脇を何かが高速で通りすぎていく。
それが、シーザーだと脳が理解したとき、私の正面には五体満足で佇む緑色の鬼。
黒かった髪と瞳も緑色に染まり、爪と牙が鋭く長く伸び、体格は一回り大きくなっている。見た目は、まさに、
解析をするが――。
―――――――――――――――
〇
ステータス
・HP:C(――/100%)
・MP:C-(――/100%)
・筋力:B-(――/100%)
・耐久力:C+(――/100%)
・魔力:C-(――/100%)
・魔力耐久力:B(――/100%)
・俊敏力:C+(――/100%)
・運:C+(――/100%)
・知力:C-(――/100%)
〇種族:ゴブリンロード
〇称号:ゴブリン族の英雄王
――――――――――――――――
まずいな。力の差があり過ぎる。これでは、背を向ければ瞬殺されそうだ。しかも、剣たるシーザーはさっきの
「下等生物共が、王たる余に歯向かう愚行、十分に思い知らせてくれる」
そして、目を血走らせながらも、私を踏みつける
いきなり
まあ、いい。どの道、この下種に背を向けるなど今の私にできそうもない。というか、このような闘争の基礎も知らん小物にこの私が敗北するなどありえない。
私の魔力と筋力では奴を傷つけることはできない。そして、それは仮にシーザーが戦闘に復帰したとしても同じだろう。小手先では、どうやっても勝利は難しい。
ふん、なら称号――【小鬼殺し】が使用可能となればいいのだろう? 簡単なことさ。少なくともこの場から逃げ帰るよりかはずっと。
左目を閉じ、思考を一時的に心の中に潜り込ませる。
私の前にはいくつもの
それは時にして0コンマ数秒にすぎまい。ようやく紐が解け、前方には
それに手を触れると――。
『称号――【小鬼殺し】の完全開放に成功いたしました』
そんな機械的な女の声が脳に反響する。
不意に全身の痛みが消失する。
私を踏みつける
「なっ!?」
驚愕の声を上げる
ドゴォォッ!!
地面に無数の裂け目が入り、巨大なクレーターができあがる。
「がはっ!!」
奴の右足首を掴んだまま、
何度も、何度も、何度も――私は叩きつけ続けた。
十数回の地面への殴打の後、
その足首は明後日の方向に
「ぎ、ぎざま――」
何か口にしようとしていたが、私は構わず壁に投げつける。
クルクルと高速回転しつつも、壁に顔面から
地面を蹴り、
間髪入れずに、左ストレートに、アッパー――奴の全身をくまなく壊し続けた。
私の前には、ぼろ
両手両足は折れ曲がり、顔は潰れ、
「ゆ……で」
「悪いが、何を言っているのかわからない」
ふん、わかる必要もないがね。
私は無造作に右手の
「グガッ!!!」
私を見上げる顔一面に濃厚な恐怖が浮かび上がる。
必死で抵抗を試みる
「運がわるかったな」
あのまま死んでいたら、こいつも幾分救われたのかもしれん。
「グギィ!!!」
私は、【鬼殺界】を発動し、世界は大口を開け、
◇◆◇◆◇◆
????――蛇鬼
気配のする部屋の中心に視線を向けるが――。
「ひっ!!?」
小さな悲鳴が口から漏れ出る。
そこには、無数の粒子がうごめく人型の塊があった。
これは、おそらく、
「おっ! そうだよ。それが、君らの真っ当な反応ってやつさ」
白色の悪意の塊は、うんうんと満足そうに何度も頷く。
「き、貴様は……」
「僕? 僕は水先人さ」
「ふざけるなっ!」
「益々、いいねぇ、その恐怖のたっぷり入ったリアクション。ポイント高いよ。あいつの後だと特にね」
初めて、白色の塊は、不快そうに口端をへの字に曲げる。
「答えろっ!!」
あらんかぎりの声を張り上げる。
「あんな人の皮を被ったバケモノに目を付けられるとは、存外君も運がない。助けてやりたいのは山々だけどさ、これはルールだからね」
「何を……言っている?」
カラカラに乾いた喉でどうにか疑問の言葉を絞りだす。
「僕は水先人、それ以上でも以下でもない。
これから、君は無限の死の螺旋への旅に出る。それは終わることがない
「余を元の場所へ戻せっ!!」
激高するも、両足首に鈍い痛みが走り、恐る恐る顎を引いていくと――。
「っ!!!?」
心臓を直接鷲掴みにされたかのごとき、強烈な嫌悪感。床の真っ赤なタイルからは、無数の人間の子供の上半身が生えており、
「彼らに連れてってもらいなさいな。では、良い旅を」
「い、い、いやだぁっ!!」
その懸命な抵抗を嘲笑うかのように、真っ赤な血の涙を流す無数の子供達は、クスクス笑いながら、
「余は、余は――!!」
とびっきりの恐怖と絶望、そして、僅かな後悔のもと、
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