身体は児童、中身はおっさんの成り上がり冒険記

第17話 ゴブリン襲撃事件解決

　シーザーを担（かつ）いで、トート村へ転移する。

　予想通り、シーザーの仲間達によって、トート村内に侵入したゴブリンは既に、制圧済みだった。彼らが陰から補助してくれたおかげだろう。初動の遅れによるジュド達のかすり傷以外、あれほどの事件で死傷者は零（ぜろ）。これはまさに奇跡だ。

ちなみに、ゴブリンに捕らえられていた女性達をトート村に転移したせいで、一時、村はカオス状態となったらしいが、丁度、村に戻ったセバスチャンにより、事態は収拾をみたようだ。

今は村の名主宅で、お茶を振舞われている最中ってわけ。

　最初に口火を切ったのはシーザーだった。

「グレイ、お前、ホント、出鱈目（でたらめ）な奴だな」

　そんなしみじみ言うなよ。本当に変な奴みたいじゃないか。

「そうか？」

「ああ、どこの世界に、覚醒した小鬼王（ゴブリンロード）を殴り殺す魔法師がいる？」

「たまたまだろうさ」

「あのな、剣士の俺が、奴の一撃で、グロッキーになったんだ。偶然できてたまるかよ」

「そうかい。それで小鬼（ゴブリン）に捕まっていた女性達はどうなったの？」

　無理矢理話題を変えると、セバスチャンが、軽く頷き、説明を開始する。

「捕らわれていたのは、この村周辺の村娘達とミラード領を訪れた行商人でした。全員例外なく心に深い傷を負っていますので、そのケアが必要となりましょう」

だろうな、あの惨状（さんじょう）で真面（まとも）な精神を保てるはずもない。故郷（こきょう）へ送り届けるのは、落ち着いてからで十分だ。

「羽根の女性や男性達は？」

「彼女達には、『古の森（いにしえのもり）』への帰還も勧めましたが、意外にも全員がこの村での生活を希望しております」

　この村に私が力を貸していることは、村人から話くらい聞いていることだろう。あれほど私を怖がっていたのに、どういう心境（しんきょう）の変化なのだろうか。

「不思議か？」

「まあね」

　シーザーは、呆れたように、大きな溜息をはく。その仕草、いくら私でもカチンとくるぞ。

「あの嬢ちゃん達は、グレイ、お前の庇護（ひご）が欲しいんだそうだ」

「はあ？　僕の庇護ぉ？」

「どうやら、奴さん達、村人達から、グレイの所業を耳にして、恐怖を通り越して、信仰心（しんこうしん）でも芽生（めば）えてしまったようだな」

「でも、村人達は彼女達の移住を了承しているの？」

「ええ、聖人様がお決めになったことならと」

　シーザーの代わりに、セバスチャンが答えてくれた。

「そう」

まあ、本人達がそうしたいってんなら、別にいいじゃないか。それに、異種族との共存には、少々、興味があったところだし。

「ところでよ、グレイ、お前、冒険者になるつもりはねぇか？」

　シーザーがその話題を切り出すと、彼の仲間達が一斉に身を乗り出してくる。そのあまりに真剣（しんけん）な様子に、面食（めんく）らいつつも、言葉を選んで口にする。

「一三歳になってこのミラード領を出たら、登録はしようと思っているけど」

「そうか、そうか」

　満面の笑みで私の背中をバンバン叩き、その仲間達もほっと胸を撫（な）でおろす。

そのシーザー達一行の奇行に眉を顰（しか）めていると、シーザーは席を立ちあがり、

「またな、冒険者になったら連絡しろ」

　それだけ端的に告げると、シーザーは仲間を引き連れ、名主（みょうしゅ）宅を退出してしまった。

「ぼっちゃんは、本当に、この地を出ていくおつもりですか？」

　珍しく、セバスチャンらしからぬ話題を振ってきた。

「まあね、あの義母（外道）の傀儡（くぐつ）となるのはまっぴら、御免（ごめん）だからね」

「仮に――いえ、なんでもございません。変なことを尋ねてしまいました。どうぞ、お忘れください」

　セバスチャンは、私に一礼すると、名主宅（みょうしゅたく）を出ていく。

　私もサテラとカルラを迎えに行くべく、ストラヘイムへと転移した。