第八章 同族殺し

8-1

 仮眠から覚めたジェドとヒューイ。私達の多少の変化に気付き、どうしたのかと聞いてきた。さすが技術者だ。ほんの少しの表情の変化や声のトーンを察することができるなんて。感心しながら隠す必要がないと判断した情報を開示する。二人は沈黙を決め込んで私達の話に耳を傾けた。不気味だと思えるくらい私は淡々と喋り続ける。まるで他人事のような感覚は未だ実感ができていない証拠だった。完璧な整理はまだ終わっていない。


「なるほど。ここまでくるとアルバだけを悪者に仕立て上げるのは難しいな」


「私の父は何も悪くない」必死でジェドに訴える。「父は世界崩壊を望んで実験を行ったわけではないし、むしろ救うためにジンのコントロールを試みたんだ」


「アルバが実験を行っていたのに? バベルストロームが首を突っ込む必要は?」


「アルバの技術と、残酷なやり方では無理だと思ったんじゃないか?」


 そこでイーヴィルが割り込む。


「奴らでは話にならないが、コントロールを可能にしなければジンは暴走する一方。危機を感じてバベルストロームが別の方法で実験を始めたのだろう。つまり当初からアルバに信用はなかったというわけだ。今も昔もまともな思考は持ち合わせていなかったみたいだな」


「……そういうことなら納得だな」


「だが――」ヒューイが口を開く。「その真実をアラランタの民衆に語ったところで誰も信じようとはしないだろう。アルバそのものが崩壊しない限り、奴らが作り出した嘘への信用は揺るがない。あの企業が存在していては我々はいつまでも悪だ」


「ああ、だからこそアルバは徹底的に打ちのめす。それから……父の尻拭いもな」


「会ったこともない父親に、そこまでしなくていいんじゃないか?」


「いや……」クライシスの言葉に私は首を横に振る。「私はこのためにシニガミになった。やらなければ自分自身の選択を否定することになる。誰がなんと言おうとやり遂げる」


「そうかい、そうかい」


「なら、打倒アルバへの第一歩としてこれを提案しようじゃないか」


 暗い空気を打ち消すように興奮気味のヒューイが管理室の大きなモニターに設計図のようなものを表示させた。二足歩行のロボットの両肩に二つのタンクが搭載されている。


「これはシニガミ用のオーバードウェポンだ。データベースの中に保存されていてな。初期型に利用するつもりで設計されているが、多少の変更で使い物にはなるだろう。いずれ強大な敵と対峙した時に高火力の装備が必要だからな。細かいことは作業しながら話すことにしよう」


 半ば強引に地上の格納庫へ駆り出され、モニターに表示された設計図と睨み合う。一見したところ、オーバードウェポンとよばれるこの装置は外部装着するのではなく、中の回路とプログラムを変更するのが主だ。両肩に追加のデルタ粒子が充填された燃料タンクを乗せ、それが流れる腕の回路を倍に増やす。その部分は基本的に弁が閉じているが、オーバードウェポンを使用するための安全装置を自身の意思で解除した途端に弁が開いて追加の燃料タンクから大量のデルタ粒子が腕へ流れ始める。両手を組むように合わせると肘から下の部分が変形して一体化し、半径二キロに及ぶ周辺を一層できるブレードが出現して、それを一周するように振るのだという。燃料タンクにはあらかじめ劣化ウランも混合していて強烈な爆発が起きるというのだが、腕のブレードは元々、劣化ウランを使用するようになっていないので相当な負荷がかかるだろうと予想する。とんでもない代物だ。


「大群に囲まれた状況では便利かもしれないが、これのデメリットは?」


「全エネルギーを消費するため意識は保つものの動けなくなる」ヒューイは目を細める。「バベルストロームでこの実験を行った時、被検体の両腕は膨大なエネルギーに耐えられず溶解あるいは分解を起こしてしまって実験が中止されたようだ。腕に限らず全身の回路にもダメージがある。実験体になったシニガミはもはや修復不能だったと記述があった。これは怪物兵器だよ」


「こんなものを私達に? スクラップになってしまう」


「安心しなさい。君達に実装するものは供給エネルギ―量を下げてある。同時に負荷も軽減されるだろう。ただし、いざという時だけに使うことだ。下手をすれば仲間をも抹消してしまう。軽減するとは言ったものの肉体的ダメージは相当だ。諸刃の剣だよ」


 私は口をつぐむ。バベルストロームは怪物のような装備を完璧には程遠い初代機のシニガミに搭載しようとしていたのかと思うと震える神経はないが身震いしてしまう。よく見ればめちゃくちゃな設計だし、不完全だった初代機なら一歩間違えば分解してしまうのではないだろうか。多少の負担軽減が施されているとはいえ、ヒューイは私達を何と戦わせる気なのか。まさか。


「多数決だ」


 最初に口火を切ったのはクライシス。自信満々で拳を握り、私とイーヴィルに挑戦状を叩き付ける。この古来からの戦いで誰が犠牲になるか決定するわけだ。三人で輪になり、大の大人が地獄を擦り付け合うため気合いを入れる。皆、考えは同じだった。こんなおかしな兵器を自分の身体の中に招待するのはごめんだ、と。


 せーの、の合図で指が多く向いたのは紛れもなくイーヴィルだった。本人は私に向けていたが、何を思ってそう決断したのかなんてどうでもよかった。最初の犠牲者は免れ、後はヒューイがこれを私とクライシスに搭載しようと言い出さなければ問題ない。


 やってくれたな、とでも言いたげに半ば呆れたような色を浮かべるイーヴィルは、特に抗議することもなく怪物じみた兵器の搭載を受け入れた。何かあったらフォローすると言ってやったが、よくよく考えると私達も命の危機に晒されるというデメリットを思い出す。むしろフォローされる側になるのではと不安が込み上げる。

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