8-2
「さて、誰に決まったんだ?」
悪魔に見えるヒューイがそう問いかけてきたので、私とクライシスはイーヴィルに視線を向けた。彼は既に嫌気がさしているようだった。
「イーヴィルか。こっちへ来てくれ。ほら、二人も見てばかりいないで手伝うんだ」
逆らうと酷い目に遭う、なんて想像した私達はイーヴィルに怪物兵器を搭載する準備の助手を務める。デルタ粒子と劣化ウランが混合して充填されたタンクをイーヴィルの両肩(どちらかというと肩甲骨辺りだが)に載せ、一時的に腕が取り外されて内部回路を変更、両手が結合できるように改造も施される。気の毒に、と思いつつ作業を進めるが、明日は我が身と覚悟しなければならない。確立された意思があるとはいえ、やはり私達は機械なのだ。いくら知り合いといえども機械を道具として見る部分は完全には消えない。だからこそシニガミの処理範囲を大きく上回る恐ろしい兵器を採用しようと思えるのだ。心のどこかで私達が木っ端微塵になっても代わりを作ればいいだろう、なんていう気持ちがあるはず。少なからず彼らはアルバに望んで加入した者達なのだから。
「感覚はどうだ?」
搭載作業を終え、イーヴィルは両手の感覚を確かめる。手を開いたり閉じたり、手首を回して肘も屈伸させる。異常はないようだが、イーヴィルはーー当たり前だがーー浮かない表情である。
「問題ない」
「なら、早速実地訓練を行おう。ジェド、ジンの反応は?」
「内側には侵入してきていないが、感知できる範囲内には一体のジン反応、四体の別の生命反応がある。恐らく――」
「シニガミか」私は途端に億劫になる。「四人というところが気がかりだが、シニガミが既に戦闘しているならこのジンとは交戦しない方がいい」
「何故? 絶好のチャンスだ!」ヒューイが私の肩を押す。「ジンもろともシニガミも駆逐してしまえばいいじゃないか。アルバの戦力を削れるぞ」
「今回の目的はそれではない」
イーヴィルの冷たい一言でサイボーグと人間の間に亀裂が走ったような気がした。何かが違う。アルバから離脱するために連れて来たものの、兵器に関する話題になると人が変わったようだ。特にヒューイは……。
「とりあえず向かおう」
仕方ないといった様子でクライシスが出撃準備を始めたので、私とイーヴィルも渋々防弾コートを着用した。背中にはWMBが接続されたが、デルタ粒子の供給を一瞬だけ渋った自分がそこにはいた。行きたくない……どこかでそう思っていたのだろう。ジンと交戦中のシニガミがもしAチームの奴らだったら……ろくでもないことになりそうな予感だ。
「人間は無責任だ」
こぼれ、すぐに霧散してしまったイーヴィルの言葉を私は聞き逃さなかった。あえて私は何も言わなかったが、これが不信感の始まりになるだろうと確信する。いずれヒューイやジェドと決別しなければいけない時が訪れるかもしれないという考えが払拭できない。
オーバードウェポンを搭載したイーヴィルを後方に、私とクライシスが前に出た隊列で反応があったジンの元へ向かう。時刻は夜中、赤外線の視界を頼りに荒野を突き進んでいると熱反応が五つ確認できた。突撃しようとWMBの出力を上げた時、イーヴィルの《止まれ!》という言葉で急ブレーキをかけた。足で地面を削りながらスピードを殺し、振り向いて怒鳴る。
「一体どうしたんだ!」
《よく見ろ、Aチームと、それから……セロだ》
その言葉に私の動力源が停止してしまいそうになった。視界をズームしてみると、忌わしいAチームと、一人だけ目立った行動を続けるシニガミが目に留まった。藍色の髪の毛、我々と全く異なった装甲を纏ったボディは異端を物語る。見かけない装備を使用しているようだし、彼は本当にシニガミになったのだろう。しかし、何故? この手で殺したはずなのにどうしてシニガミの身体に移植できたのだ? 見た目が奴なだけで中の意識は別人か?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます