6-2

 残っていたはずの〈シュニー〉の姿はなかった。ミサイルの着弾地点の周辺は地形が変形し、そこに存在していたはずの全てを吹き飛ばしてしまった。私はそれを目にして開いた口が塞がらず、撤退の二文字が脳内を埋め尽くす。あれはまだ私達が敵う相手ではない。


 奴は巨大な金属で構成された翼を器用に使ってゆっくりと地上に舞い降りたが、私達にとってそれは悪魔そのもの。土煙が漂う中、常に飢餓と残虐でぎらついた業火の瞳をこちらに向ける。架空の存在として語り継がれるドラゴンの容姿に似ているような……いや、超科学時代に空を支配していた戦闘機に似ているかもしれない。先日、対峙した〈セデルベルイ〉より少々小柄だが、あの巨体に秘めた戦闘能力は計り知れない。今まで何人ものシニガミが奴の餌食になったことか……。AとBの二チームしか存在しない理由は、奴に遭遇して生き延びたからである。過去、CチームやDチーム、もっと多くのシニガミが生み出され、二桁を優に超えたサイボーグが所属していたはずだったが、ある時を境にチームが帰還しなくなった。その時期は奴がアラランタ周辺を徘徊し始めた時期とぴったり当てはまる。まだ我々には奴と対等に渡り合えるほどの能力や装備はない。奴はジンの支配者だ。現時点、私達は金属の支配者に背を向け尻尾を巻いて逃げるしかない。


「イーヴィル、どうする?」


《本部に緊急アラームは発信した。待っていればすぐAチームが駆けつけるだろうが……その前に俺達の全てが終わるかもしれない》


《冗談はやめてくれよ》強張るクライシスの声。《到着を待つより撤退した方がいい》


「だが、これは好機だ。奴のデータを収集するチャンスを逃すか?」


《お前の真面目さには呆れるぞ。死んだら収集したデータも意味を成さない》


「そうかもしれないが、ここからアラランタは近い。撃退しないと街が危険に晒される。どちらにせよ遠い未来、私達がなんとかしなければならない。シニガミはこのために作られたのだから」


《まあ……間違ってはいないな》クライシスは私の隣にやって来た。《死んだ後のことはAチームに任せればいい。俺達はただ、使命を全うするしかなさそうだ。それが生きる道だ》


《お前の簡単に意見を変える癖について行くのが大変だ、全く……》


 撤退を拒んだ私とクライシスの判断に、イーヴィルは仕方ないといった様子で続けた。


《各自デルタ粒子の残量確認し、オースティンは左へ、クライシスは右へ展開しろ。無謀な行動は控え、まずは様子を伺え。行動開始!》


 命令を受け、私とクライシスは言われた通りの方向へWMBを使用して移動する。同時に奴も動き出し、再び上空へと上昇して行った。金属がひしめく音が響き、何故かその音が鳴り始めてから視界が上手く映らなくなった。なんらかの電磁波でも発生させているのか?


《来るぞ、備えろ!》


 イーヴィルが叫んだ時、旋回してきた〈スカイロード〉は口を開き、喉奥から顔を覗かせる銃口に集合した緑色のレーザーを見境なく発射した。それは弧を描き、ひと息ついて抉った地面から吹き上がる溶岩のように爆発する。あまりの衝撃の強さに三人とも吹き飛んでしまい、回避に成功したものの、地面を転がるという余計なダメージを負ってしまった。


 謎の電磁波によって通信機能は完全にダウンしていた。私はいつも以上に重く感じる身体を起こして再び奴に視線を向けたが、危機的状況がそこには迫っていた。


 空中でホバリングした奴は銃口を間違いなく私に向けていた。謎めいた緑のエネルギーを充填し、まさに今、私を消滅させようと発射させた時だった。


 目の前で爆発が起きた。私は腕で顔を覆い、襲い来る爆風に耐える。眼前で何が起こったのか理解できたのは、土煙が治まりかけてからの光景。

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