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赤味が強く出た茶髪は母譲りで、面長な顔は父によく似ていると言われていた。身長も友人達より頭が一つ分くらい突き出ていて、体格は他人より恵まれていたと思う。だから自分自身を過信していた部分があったかもしれない。それを理由に私は最初の任務で痛い目に遭ったのだ。
「ここにいたのか」
噂をすれば私に痛い目を見せた本人の登場だ。座って自分を眺めていた私は左へ顔を向ける。
私より少し高い身長、セラミック製の人工頭髪は肩まであり、色素のないそれは薄暗いこの部屋でも目立って見える。シニガミに共通しているレイステンという特殊な金属でできた赤い瞳は暗所に適応して鈍く光っていた。獲物を狙う狩人の目付きはいつでも相手を威圧していて、これは確かに人のものではなかった。
「丁度、お前に右脚を切られたことを思い出していたんだ」
「ああ、あの時の」彼は乾いた笑い声をあげた。「愚かなお前の態度に腹が立って、つい手が出たんだったな」
イーヴィルはゆっくり歩いて私の隣に腰を下ろす。それから彼は生身の私の左側に佇むカプセルに視線を移した。冷凍された彼の肉体がそこにはあった。シニガミになってから長い年月を経て、彼は生身の肉体より少々異なる容姿をしていた。
「最初のお前は思春期の少年のように生意気で身の程知らずで、何より質の悪い自信に満ち溢れていた。未知の世界に飛び込んでもなお、お前は身勝手で自分が最高だと言わんばかりの行動を取ろうとした。そのせいでチームが乱れ、危機的状況に陥ったな」
「あの時は私が悪かった。お前が私を強引にでも動けないようにしなかったらどうなっていたか、今考えても身の毛がよだつ。本当にすまなかった」
「オースティン」彼は私の肩を軽く叩いた。「もう過ぎたことだ、良い経験になったと思って謝るのはこれで最後にしてくれよ。謝罪の言葉が多すぎて、なんだか俺がお前に酷いことをしてしまったような気分になる」
「……そうか、わかった。これで最後にしよう」
会話が途切れた。
冷却装置の小さく唸る音が虚しく保存室に響き続ける。ぼんやりとした青い光で照らされる六人の冷凍された肉体は、すぐにでも目覚めてしまいそうなくらい当時の状態を維持している。霜が付着した頭髪や皮膚、常に侵入してくる冷気にさらされている魂を失った身体は、果たして目覚めの時を迎えられるのだろうか。もし、私達が元の身体に戻れなかったとしたら、あれは一体どうなるのだろうか。高温の炎で焼かれ、灰になってゴミのように捨てられるのだろうか。私はそれを見なければならないのだろうか。自分が焼却されて灰と化したものを、この手で処分しなければならないのだろうか……。
その時だ。施設全体に大音量のブザーが鳴り響いて、物思いにふけっていた私の意識を強制的に引きずり戻した。私とイーヴィルはすぐさま地下保存室から駆けて、唯一、外と繋がる一階の〈冥門〉へ向かう。行き先を決定付けたのはブザーと同時に流れた女性オペレーターのアナウンスだ。
《エリア十三にてジンの反応あり。距離は百二○キロメートル、現在も高速で接近中。Aチームは待機し、Bチームは至急〈冥門〉へ集合してください。繰り返します――》
高速移動が可能なジン……走りながら標的がなんなのか考えていたらすぐに答えが出た。軽量ながらも頑丈な複合装甲を採用された戦車などの兵器を好んで食べる〈セデルベルイ〉というウミヘビ型の個体だろうと予想する。セラミックやチタニウム合金、炭素繊維、劣化ウラン、レイステンなどの複数の金属を食糧として成長。結果としてジンの中で最も装甲が頑丈で最速の個体へと進化した。そんなものがアラランタに突進してきたら、五重構造の炭素鋼製の防御壁が効果を発揮する前に貫かれてしまう。炭素鋼は炭素の割合が高く、堅さに関しては優秀だが、〈セデルベルイ〉のように超高速で、しかも一点集中で突っ込んでくる強い衝撃には恐ろしく弱い。こういった事態に備えて使用する金属をもっと考慮すべきだったが、この防御壁が完成した後に〈セデルベルイ〉が誕生してしまったので造り直すわけにもいかず、現在は時速五○○キロの衝撃にも耐えられる金属を開発しているそうだ。
地下保存室から〈冥門〉まで距離があり、一分ほどで到着。もう一人のチームメイト・クライシスと合流し、アシスタント達の協力で防弾コートや戦闘に必要な武器を身体中に仕込み、更に背後に専用のブースターを取り付ける。これがあれば移動速度も上昇し、空中でのホバリングも可能になる。時速は最高で四○○キロ。〈セデルベルイ〉には劣るが、それでも引けを取らないだろう。〈ホールエリア・モバイル・ブースター〉通称WMBは、シニガミにとって必要不可欠な存在であり、例えるならこれが死装束のようなものだ。WMBがなければ〈セデルベルイ〉やその他のジンと渡り合えない。
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