第二章 シニガミ

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 金属には時間という概念がなかった。睡眠も食事も休息も必要とせず、武器となる全身のメンテナンスと故障した部位の修理のみを要した。人との関わりで精神を病むこともないし、日々の生活に対して疲労すら感じない。生身でいるよりもサイボーグの身体の方が何も気にせずにいられるので楽と言えば否定はしない。


 ただ、冷凍された私自身を見ている時だけは、嫌な気分が分厚い雲のように私の機械的な脳内を容赦なく覆っていた。


 ジンを狩る組織『アルバ』は実質、アラランタでの支配権を握っている。だが、アルバは政府機関でもなんでもない。アラランタの市民がその気になればいつでもアルバをここから追放できるのに、人々は今までその選択をしてこなかった。それは何故か? アルバが抱える対金属生命体用サイボーグ『シニガミ』の存在がアルバへ抵抗する気力を奪っていたのだ。


 シニガミは現時点で私を含め六人。『ジェット・ブラック・サイス』というチームを組まされ、三人一組で行動を共にする。その名の通り漆黒に包まれた姿はまるで死神が纏う死装束そのものだと人は口を揃えて言う。市民から見た私達は敵だ。そして凶器だ。彼らはアルバという組織を恐れているのではなく、破滅の象徴とされるあのジンすらも狩り殺すシニガミに恐怖している。それが暴動の抑止力として働いているのだ。


 とはいえ、私達シニガミも元はといえば人間。彼らのように感情の起伏があり、己の思考も持ち合わせている。私達はアルバに操られているだけの機械ではないのに、市民は恐怖のあまり私達の言葉は本物ではないと言って聞き入れてくれない。


 私は何度、自分を見つめながら悲しみを押し殺したことだろう。記憶、人格を取り除かれた生身の肉体はそのまま破棄されるのではなく、アルバの施設の地下保存室にて冷凍保存されている。綺麗な状態で一人ずつ、この先永遠に透明のカプセルで保管される。私達があの身体に戻れる保証はないが、人間だった証拠として私達はこの光景を見続けなければいけない。


 不思議な感覚だった。この身体になってから十年以上も経過しているというのに、ここに足を踏み入れると、まるで昨日のことのように記憶が鮮明に蘇る。恐怖心と、忌々しい存在を滅することができるという期待が入り混じって高揚していた私。これから想像を絶する残酷な日々が待ち受けているというのに、あまりにも単純な動機を持って簡単に決断を下した気がする。

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