霧雨の捕獲者

天田れおぽん@初書籍発売中

第1話

霧雨とは風流な、濡れて帰ろう。


この街において、その発想は危険だ。なぜなら霧のような細かい液体が降ってくるからといって、水とは限らないからである。直径が0.5mm未満になれる液体は、この世に色々と存在する。また、液体というものは、流れて溜まって一つになることが出来るものなのだ。


実際、目の前で霧雨はゆるゆると集まってひとつとなり、たちまちのうちに人の形となってユラリと立ち上がった。


「ふっふっふっ。降って集まり現れる。我らの手を逃れることができると思ったか、左之助」


やっだなー、なんでうちの親は左之助なんて時代劇みたいな名前にしたんだろう。これじゃオレ、時代劇の登場人物みたいじゃん。


左之助は心の中で毒づきながら、舌打ちをした。目前の人影は何を思っているのか、勝ち誇ったようにニヤリと笑った。


なぜ追手はこんなヤツばっかりなんだろう。オレは割と無敵系よん。

「だから、お前なんてお呼びじゃねーんだよ」


左之助は気を巡らせて集中すると、右手に炎を作った。


「お前ら雨に紛れて忍び寄れる癖に、意外と可燃性高いじゃん!」

叫びと共に、手にした炎を目前の人影に投げつけた。


「ウギャー。左之助、この卑怯者め」

「いや、雨に紛れて近付くお前らのほうが卑怯だろうっ」

聞き逃せずに思わず突っ込んでしまった左之助だったが、そのせいで後ろから近づく気配に気付くのが一瞬遅れた。

「うわっ」

そして、気付いたときには遅かった。あっという間に網の中。得たいの知れない物のなかに、左之助は捉えられてしまったのだった。

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