第14話 リザードマンと一緒3
朝陽が洞穴に差し込み、俺は目を覚ました。隣ではリュウコが寝息を立てている。誰かと夜を共にしたのは初めてなので、寝床に自分以外の誰かがいるのはなんとも奇妙な感覚である。
リュウコも目を覚まし、俺を見て喉を鳴らしている。相変わらず言語はわからない。
また洞穴の外にリュウコが行くと、魚を持って帰ってきた。俺は焼き魚、リュウコは生魚だ。
リュウコは俺の食事が終わるのを待って、生魚には手を付けていない。俺が最後の一口を食べると同時に、リュウコは生魚を一飲みにする。もしや同じタイミングで食べ終わるようにしているのだろうか。可愛すぎか?
食事がすむと、リュウコは寄り添うように俺の横に座る。言葉が通じないため終始無言の時が流れる。一体どうすればいいのだろうか。
俺が集落を見ようと立ち上がろうとすると、リュウコは手で制す。他のリザードマンが洞穴まで訪ねてくると、リュウコは慌てたように洞穴の入り口まで走っていた。
もしかして俺を外に出さないつもりなのだろうか。だが、出るな出るなと言われるほどに、出てしまいたくなる。それに俺の目的はリザードマンの生態系について観察することだ。リュウコには申し訳ないが、何とか外に出る方法は無いかと考えた。
うんうんと思案していると、にわかに外が騒がしくなり始めた。
何かあったのか、洞穴の前を何匹ものリザードマンがせわしなく行き交っている。
リュウコも心配なのか俺と外を交互に見ると、か細く鳴いた後に洞穴の外へと出ていった。
動かないようにと俺に言ったことは何となくわかるが、心の中で謝罪しつつ俺も洞穴の外へと飛び出した。ぎらついた日差しに目が慣れると、そこにはリザードマンの集落が広がっていた。
おおきな岩山を横からごっそり削ったような形の集落で、内側の壁にはいくつもの穴が開けられており、多くのリザードマンが生活していることがわかる。
そんな中、大柄なリザードマンたちが、集落の出入り口に集まっていた。槍と盾を持ち、空を指差して何かを激しく言い争っているようだった。
その指の先を見ると、集落からは少し離れた地点に大きな白い鳥が見えた。かなり距離はあるだろうが、あの大きさはルフ以外には考えられない。周囲の洞穴から顔をのぞかせるだけのリザードマンたちも不安なのかじっと空を見つめて動かない。
やがて大柄なリザードマンたちは、足並みをそろえて集落を後にする。おそらく集落を守るため、戦いに出たのだろう。
だが石の槍と木の盾では、ルフを倒せないどころか追い払うのも難しいだろう。
「一宿一飯の恩、ここで返すべきか……」
俺は決心してリザードマンたちを追おうとすると、リザードマンスーツの尻尾が引っ張られる。リュウコが弱弱しく喉を鳴らしながら、俺を止めた。
流石に言葉がわからなくても何となくわかる。行くなと言っているのだ。
でもこのままではあのリザードマンたちはやられてしまう。俺が魔道具を持って加勢に行けば何とかなるかもしれないのだ。幸い腰に差した魔道具はまだ残っている。
リュウコの掴む尻尾を無理やり引き離し、俺は悲し気な鳴き声を背中に浴びながらリザードマンたちを追いかけた。
***
集落から離れ、湿地帯を突き進むリザードマン一行。その後を俺は隠れるようについて行った。
上空を飛んでいたルフは、大きく羽ばたきながら地面に降りている。お辞儀をするように何度も頭を下げているので、もしかしたらエサでも食べているのだろうか。周囲を警戒していないのは、強者ゆえの余裕だろう。
リザードマンたちはそれを見て装備の確認をしているところだった。会話もしているようなのでなにか作戦があるのかもしれない。
俺も何かできないかと思案していると、遠くの草むらが一瞬光ったように見えた。
よく目を凝らすと、草むらから金髪が見える。他にも誰かいるようだ。
リザードマン一行から離れ、その輝きに近づいていくと全員見知った顔だった。
「皆こんなところで何してるんだ?」
「シズオ! 良かった! 無事だったんだな」
ナシャルは俺を見ると、顔をほころばせた。
「ああ、なんとか。それよりなんで二人が?」
「やあやあ、君が心配で救出に来たのさ。それにしても凄い恰好だね」
「出張販売」
二人の魔法使いは、のんきな声でそう言った。ナシャルが救出のために連れてきたということだろうか。約一名不純な目的の奴がいるが。
「ともかくシズオは無事回収した。このまま引き上げよう」
「待ってくれ」
呼び止めると、出発しようとした三人が俺の方を見た。
「実は今まで俺はリザードマンに世話になってたんだ。命の恩人に恩返しせずに帰るわけにはいかない」
「ルフを倒すということか?」
「ああ。いや、せめて追い払うだけでもいい」
「でも相手はルフだよ? あんな遠近感狂うような奴が相手じゃ厳しくない?」
「だから皆の力を貸してほしい。ただとは言わない、報酬は……そうだな……」
俺が良い報酬が思いつかなくて言い淀んでいると、ユトとネトリアは声をそろえるように言った。
「シズオの玉」
「君のタマタマでいいよ」
二人のあぶない発言にナシャルが慌てている。俺の持っている魔道具についてはナシャル以外には言っていない。
「すまないシズオ。詰め寄られて喋ってしまった」
「言っちゃったものはしょうがない。わかった、報酬はそれでいいよ」
魔法を無力化する魔道具一個が報酬とは、随分高くついてしまった。
「それにしても、シズオは意外と熱い奴だったんだな。たとえ怪物相手でも恩を返そうとするその姿勢、気に入ったぞ」
ナシャルが俺の肩に手を置くと、にっこりと笑いながらそう言った。
「おや、シズオ君もしかして照れてるのかい?」
「かわいい」
「うるさいな。作成会議するぞ」
和やかにお喋りしている時間は無い。リザードマンたちが戦いを始める前になんとか決着をつけたいのだ。
「ここで皆の戦力を確認したい。俺は魔力を無効化する魔道具と、ユトの作った炎の投げナイフが二本ある」
「私はいつも通りだ。拳で殴る」
ナシャルは右腕の拳を見せて笑う。
「新商品持ってきた」
ユトはぶっきらぼうにそう言って、革袋をローブの中から取り出した。中には豆粒のような物がたくさん入っている。
「これはゴーレムの種。埋めるだけで簡単にゴーレムが作れる」
「おお、それは凄い」
「でもまだ開発途中」
「そんじゃあ次は私だねー」
ネトリアは指折り数えながら、使えそうな魔法を上げていった。さすがは魔法大学に通う魔法使いといったところだろう。
「四元素の基本操作と、水系の中級魔法と、それから触手召喚の魔法は未完成で……」
ネトリアの列挙する魔法が変な方向に言ったところで、俺達は作戦を練り始める。
やはりナシャルの馬鹿げた攻撃力を要に、俺が囮になってユトとネトリアが随時サポートとした方が理想だろう。
しかし問題なのはナシャルの射程の短さだ。物を投げてカバーしようにも、なにせ手に持った物を壊してしまう怪力。投石を試したところ、投げる直前に石を粉々にしてしまった。もし投げられたとしても制御のできない怪力だ。コントロールは絶望的だろう。
直接殴るには、ルフを一度地面に近づける必要がある。
「やっぱ魔法に頼るしかないのか? 遠距離から攻撃する魔法はルフに当てられるか?」
「羽ばたいてる時の風を計算に入れると、ちょっと無理かなぁ」
ネトリアもそれを考えていたようで返答はすぐだった。ユトも頷いているので、遠距離攻撃という線は無くなった。
「ネトリアは範囲魔法が使えるだろ? 裸にする以外にはなんかないのか?」
「あれは、服を透明にする魔法で厳密には……まあいいや」
考えるネトリアは、しばらくして顔を明るくした。
「あ、最近完成したとっておきがありますぜ」
「とっておき?」
「感度倍増魔法さ」
嫌な予感しかしない。
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