第一章 Ⅳ

 あれ おれはゴールした ゴールしたのに電脳内通信機関に歓声はとどかない そもそも電脳内無線通信プロトコルが稼働していない なににもつながっていない 森羅万象がビッグデータにのみこまれたこの時代におれはひとりだ ひとりぼっち スタンドアローンだ 大体何処どこだ おれが幼少期をけみしたころの火星にいるみてえだ あれはおれじゃねえか 火星でれんたいをやっていたころのおれだ 今度はなんだ むかしの銀河系近代オリンピック会場で市民番号20358ZZがたおれている のうの世界新記録達成の刹那じゃないのか おれは何処どこにいるんだ おれはなにをしているんだ おれははしっている まだはしっている 両脚の反物質エンジンによる推進力がちようきゆうすぎてとまることができない おれははしる はしることしかできない そうか いつだったか彫刻師がおしえてくれた いわく特殊相対性理論によるとまんいち光速をりようして移動する物質が存在すればいんの物質は宇宙内のエントロピー加速度を超越して過去へすすんでゆくのだよと そうか おれははしっている おれは光速をこえてはしったから時間を超越したんだ おれははしってゆく 過去へとむかってはしってゆく 西暦二〇一一年の東日本大震災の現場をはしってゆく 西暦二〇〇一年の紐育にゆーよーく同時多発テロの現場をはしってゆく 西暦一九四五年の広島の爆心地をはしってゆく おれは加速してゆく のGがかかっているはずだがにくたいはかるい すがは彫刻師だ おれのにくたいは完璧だ おれは完璧な走者だ おれはピグマリオンにちようあいされた完璧なる存在だ 明治維新の現場だ ナポレオン西遠征の現場だ らん西革命の現場だ 十字軍遠征の現場だ もっと加速する 世界一有名なる猶太人がたつけいに処されている アルキメデスがろーの軍人にあやめられている もっと もっと 不完全な真空にがあつまって地球ができている 宇宙がはれあがって世界がはるかせるようになっている からはおれの電子眼球でも観測できない 否 ビッグバンとインフレーションのすさまじいひかりがみえる 宇宙の根源をこえる 宇宙は二次元の膜であり森羅万象は膜がうつしたホログラフィーだった 二次元の膜宇宙の最涯てにカラビ・ヤウ多様体がある 十一次元の世界をはしる それも一瞬のことだ おれはカラビ・ヤウ多様体の根源にほうちやくする 白銀のかいなる薔薇ばらが明滅している 薔ばらはいう 我が父よ ヤルダバオートよ ΑにしてΩなる存在よ さああめつちのはじまりのはじまりへとむかいすべてをあるがままに誕生せしめたまえ と――――

 おれははしった。

 ついにゴールにたどりついたはずだった。

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