第一章 Ⅱ

 いんがおれさまと『彫刻師』とのかいこうだった。彫刻師いわく宇宙最速の人間ひつきよう銀河系近代オリンピック一〇〇メートル走の優勝者となればおまえはとうしゆとんとみを獲得する 同時におれはのうに最愛の走者を犠牲にした雪辱をはたすことができる わるいはなしじゃないだろうと。おれさまは疑心暗鬼を生じながらも彫刻師のわくてきなるわなにはまってやることにした。どうせろくなはなしじゃねえ おれは大金なんかいらねえ でもおれははしりたい いつかみた世界一の走者みてえに。おれさまが沈黙しながら首肯すると彫刻師はないにおれさまの改造をらんしようした。予想通りだ。襤ぼろぼろはいきよが手術室なんだからすいすらうってもらえねえ。無論すいなしで覚醒しながらにくたいめつりにされんだからいてえのなんの。開頭手術をしたうえで脳髄の痛覚部位を切除しすいをかけようかともいわれたがおれさまは自分が自分でなくなるぶんがして遠慮しておいた。彫刻師はおれさまのにくたいをスキャンしたうえで3Dプリンターをのろのろと作動させてきゆうきようひやくがいの代替品を製造してゆく。つづいておれさまの四肢の神経系統の電流経路を計算したうえでせつだんし代替品の神経パルスをながしてゆく。さらにくびもとからけい部までの胴体を代替品と交換してぞうろつも機械化された。最後にとうだ。彫刻師は あのときの失敗はくりかえさない といって頭蓋骨や頭部の筋肉のみならず『脳髄そのもの』を代替品にするとほざきやがった。といえども理窟は単純明快だ。脳髄のニューロン間のシナプス伝達経路をこつとうひんのPCにアップロードしたうえで脳髄と電子脳髄を交換し電子脳髄におれさまの脳内ログの一切合切をダウンロードするだけだ。一部の切開ではなくぜんたいをいれかえるわけだ。覚醒したらおれはおれだった。結句脳幹からつまさきまで機械化されたおれさまを抱擁して彫刻師はいった。おまえは最高傑作だ さあ一〇〇メートル0.00000039秒の壁をこえてこい と。おれさまはがんぞう市民番号を譲渡されて惑星間弾道旅客機に搭乗し地球の日本連邦本土にほうちやくした。予選は楽勝といきたかったが決勝戦とは相違しいんもうの時空連続体仮説における地球による時空の湾曲もあったし全速力で疾駆すれば粒子レベルで核融合による爆発がじやつされるおそれがあって油断しちまった。とまれかくまれきゆうていたいりよの半身からよくって脳髄以外を改造しただけの『人間くずれ』たちにきんおうけつのトランスヒューマニストたるおれさまがはいじくすることはありゃしねえ。

 おれはつつがく予選を通過した。

 スタートはこれからだ。

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