第一章 Ⅰ

        第一章


 おれははしる。

 光速をこえてはしる。

 綿めんばくたる大昔か最近のことだ。しゆんがいたる人類の進化のためににくたいを改造するというトランスヒューマニズムによってスポーツもひようへんしていた。反陽子をもちいた反物質エンジンを両脚に設置した日本連邦火星領市民番号20358ZZは銀河系近代オリンピック世界新記録0.00000039秒という光速直前のタイムを記録した。市民番号20358ZZはエンジンからじやつされた高エネルギーガンマ線によって唯一無二生身のままだった脳髄の神経系統就中なかんずく脳幹の機能ががいせしめられてホメオスタシスが維持できなくなり機械管理のびようじよくぎようするはいじんとなった。市民番号20358ZZは最後にいっていた。おれよりはやいやつがあそこにはいた と。一〇〇メートル走世界新記録のために市民番号20358ZZのにくたいを改造した日本連邦火星領国立オリュンポスだいがく超人間主義研究所所長通称『彫刻師』なるろうは所長職を辞任し行方不明となる。おれは日本連邦火星領のあんたんたる貧民窟できようしようたるきゆうきようひやくがいせんにしてちゆうとうだつといったろうぜきこうをしのぐはん少年をしていた。ふくいくたる食糧をさんだつしてはしりまくる。はしることがすきだったんだ。のうにだれよりもはやくはしる人かげを一瞬みたことがあったからだ。おれたちいちれんたくしようれんたいは遵法けい組織についしようされることもなく悪徳の栄華を満喫していた。やがて貧民窟にはけんじんなる自警団がしようようかつすることになりるいじやくなるほうばいたちは一網打尽にされちまった。唯一無二くりの自警団からとんざんしおおせたおれはめんの状況で自警団の駐屯地にちんにゆうほうばいたちをくりげさせた。全員の大脱走を確認したおれは自警団を陽動するがためにかんどくの状況でおとりとなってはしった。はしってはしってはしりまくった。貧民窟といえどもびたせんにくたいを改造していた自警団は太陽光発電による両脚のエンジンをフル稼働させてかんぴんゆゑに生身のおれを猛追してきやがった。おれさまはほうはいたる鼓動をうつぼつとせしめながらはしる。はしる。はしる。はあ。はあ。はあ――。だ。貧民窟をすみとするわりに全身を改造したてきとうそうなろうが陰陰滅滅たるはいきよ同然のねぐらにおれさまをきようどうしてきゆうじゆつしてくれたんだ。ろうはおれさまを赤裸裸にせしめてにくたいめつすがめつしなでまわしはじめた。ろうは狂喜乱舞とも意気阻喪ともうけとれる嘆息をついていった。

 おまえ 宇宙一速い人間にならないか と。

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