『最後のRUNNER~あるいは窮極集合論におけるはしる宇宙たち』短篇小説

九頭龍一鬼(くずりゅう かずき)

序章

       序章


 おまえははしった。

 はしってはしって二十七歳で死んだ。

 ふんじんのおまえは競走を愛していた。ただはしりたかった。だれよりもはやくはしりたい。だれもほうちやくできないゴールへと到達したい。幾十億の人類が棄権しても自分は最後まではしりたい。ゴールのむこうをみてみたい。体験したい。ごうごうたる拍手をあびたい。おまえは高校卒業後自衛隊にった。はしることを諦念したわけではない。自衛隊内で陸上部をしようりつせしめた。ぎよう混濁の日本は東京五輪へとむけてきんじやくやくしている。おまえはのうより腰痛にかんしていたが東京五輪選手にひんしつされる。東京五輪男子マラソンではにく嘆をあじわいながら銅メダルを獲得した。五輪会場にじゆんこうかいの日本国旗がかかげられる。満足できない。おれは一番になりたい。世界一はやい人間になりたい。メキシコシティ五輪だ。メキシコシティ五輪で金メダルをねらう。世界一の走者になる。はしりにはしったおまえは椎間板ヘルニアになった。もうはしれなかった。てきちよくしたおまえはどうしたのか。メキシコシティ五輪開催年にけいどうみやくせつだんして自害した。

 おまえははしった。

 ゴールにとどかず二十七歳で死んだ。

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