枯山水
芥流水
枯山水
枯山水である。
無機物である岩や砂で有機物で溢れた景色を描こうとしたそれは、今が果たしてどの時代なのかを不明にさせる。
私はその全貌を眺めることのできる、板張りの廊下に正座していた。
しかし、その前後が不明である。
私は何故こんなところにいて、枯山水を眺めているのか、全くわからない。
そんな風流な趣味は持っていないはずである。
私は、立ち上がることの出来ないまま、ただひたすらに枯山水を見つめていた。
誰か歩いて来るものがある。
足音が静かに、しかし妙にはっきりと聞こえて来る。
逃げなければならない。しかし、体は動かない。
焦燥感のみが募ってゆく。
いつだったか、聞いたことがある。
悪いものはしっかりと見れば、いなくなる。
正体が不明のものは、正体不明であると言うことが強みである。見ることで、それを消し去ることができる。
頭は、動いた。
首を音の方に向けて、目を凝らす。
坊主である。
禿頭の坊主が静々と歩いて来る。
何者だ?分からない。
正体は相変わらず不明である。
しかし、坊主ということはわかった。
ここは寺なのであろうか。
坊主は私の隣に立つと、「お気に召しますかな」と言った。
「どうでしょう」
と私は答えた。
気に召すも何も、私に枯山水は分からぬ。
坊主は続けて、「しかし、こうも来られるということは、どこか気にいる所があるのでしょう」と言う。
私は一体どれほど来ていたのか。不明である。
霧の中を手探りで進むような感覚。知覚さえできぬ濃霧である。
自分のことが何一つわからぬ。分かっているのは枯山水を眺めていると言う事だけである。
鐘がごおんと鳴った。寺だから鐘もなるだろう。
坊主は、「ではこれで」と引っ込んでいった。
私はまだ枯山水を見ていた。
一体どれほど見ているか、分からない。
死んでいるもの同然だ。
ただ今があるのみである。
やがて夜が来た。
闇の中でも枯山水は変わることなく、静かに佇んでいた。
再び足音がした。先程の坊主である。
しかし、今度は私に気づかなかったようで、そのまま通り過ぎて行った。
枯山水 芥流水 @noname
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