第6話 妹からデートの秘訣を教わる
自宅のリビングで俺は陽の話に熱心に耳を傾けていた。
学校では夏希との関係がどうなることかと思ったが、俺たちのことを心配し助言してくれた妹のおかげでデートにも誘うことが出来た。
「威張って、そして厳しく。俺に従えって空気を出すの。これは会った瞬間にがいいわね」
えっ! と思い、顔を上げると陽の薄気味悪い笑みと対面する。
「……それ、さすがに傷ついたりしないかな?」
「だっ、大丈夫。これには深い意味があるから。あたしを信じて」
「そうか……わかった。これで完璧だな」
夏希との初デートは絶対に成功させる。陽もこんなに応援してくれていることだし。
言われたことをちゃんとできれば今度も大丈夫なはず。
「以上が初めてのデートを大成功にするやり方よ。ふっ、ふっ、きゃきゃは!」
陽はよっぽど俺と夏希のデートが上手くいくことが嬉しいのか、口元を押さえて笑っていた。
☆★★★☆
「お、はよう、あき君、陽ちゃん」
翌日の朝。
俺と陽が玄関を出ると夏希が人懐っこい笑顔を浮かべ声を掛けてきた。
いつもよりもどこか魅力的な笑顔に思えるのは、俺たちの関係が変わったからかも知れない。
「なっちゃん、おはよう」
特に待ち合わせをしていたわけではない。
だから今日は朝からいいことがあったと思い、俺の顔はいつもよりも緩んでしまう。
少しだけ夏希の顔を見つめる。
それは彼女の方も一緒だったみたいで途端に視線がぶつかった。
「……ご、ごめんねっ」
「いや、俺のほうこそ」
まだどこか恥ずかしい気持ちになるけど、でも昨日の朝とは明らかに違う空気を感じる。
鼓動も音を立て大きくなる。
だが、それを意識することは恥ずかしいというよりも、嬉しいと感じるくらいに心境が変化していることに気が付き、また自然と口元がだらしなくなってしまう。
「おはよぉおお、夏希!」
そんな俺たちの空気を切り裂いたのは陽のいつもよりも大きな声だった。
目を細め、化け猫が子猫に挑もうとするような態度で挨拶する。
「陽ちゃん、昨日はありがとう」
なぜだか不機嫌そうな陽の態度にも関わらず、夏希は全く動じずにさらに口元をだらしなく緩めてお礼を口にした。
「っ! べ、べつに、お礼なんていらない」
陽の顔は、悪戯を叱られている子供みたいにバツが悪い。
俺たちは通学路を歩き始める。
気を遣ってくれているのか、陽は少し距離を置き後ろからついてきていた。
「にゃーん」
塀の上を歩く猫と目が合った。
そいつは告白を目にした唯一の目撃者で何も見ていないとでも言うように遠ざかっていく。
その様子が可笑しくて、俺と夏希は笑ってしまう。
何気なく俺が後ろを振り返ると、陽が獲物を射るような鋭い視線をこちらに向けていた。
☆☆☆
教室でも俺と夏希はある意味いつも通りに戻っていた。
休み時間などは会話もでき、今日はお昼も残すことなく一緒に食べられた。
でも、いつもよりもどこかこそばゆい雰囲気を作ってしまったのか、友人たちにからかわれてしまった。
だけど、それも昨日とは違い少し照れながらも冷静に対処出来ていたと思う。
そんな感じで過ごしていたら、すぐに放課後を迎えていた。
どちらから言ったわけでもない。
それでも俺が鞄を取り視線を向けるとテクテクと夏希が傍へとやってきて、共に下校する運びとなった。
「ああ、いいなあ、なつは。わたしも彼氏欲しい~」
「あんな妹がいて、その上、川瀬が彼女だなんて、なんて羨ましい奴よ」
「っ!」
「……っ!」
クラスメイトのどこか羨ましそうな視線と声援を聴きながら逃げるように教室を出る。
さすがに一気に数人から見られるのは恥ずかしい。
俺たちが付き合いだしたこと、まだ妹にしか告げてないはずなんだけど、なんで、なんでバレてるんだ?!
下校時も登校時と変わらない空気が流れていた。
自然と会話も出来るようになり、明日のデートの待ち合わせ時間などを話すことができた。
終始口元がにやけた2人。
たしかにクラスメイトにバレてしまうかぁと少し納得。
お互い少しゆっくりと歩きながら、駅前を通りかかったころ夏希が瞬きしながら告げてくる。
「あき君、わたし、明日のためにいくつか買い物とかしたいんだけど……」
俺も一緒に行くと答えようとしたその時だ。
「おりゃぁああっ!」
物凄い勢いで陽が、俺たちの間に割り込むように肩を入れてきた。
妹のあつあつの物を冷やすようなどこか冷たい表情を見て少しだけたじろぐ。
「び、びっくりしたぁ……陽ちゃん」
「お、お前いきなり危ないだろうが」
「すいませぇん! あまりに湯気が出ていたから」
俺と夏希は顔を見合わせて、ぽかーんと口を開ける。
「あんまり、通学路でイチャイチャしてると補導されるわよ」
「っ! いちゃいちゃはしてないだろ」
「……っ! いちゃいちゃしてないよ」
だいたい補導なんて……
あれ、うちの高校恋愛禁止とか無いよなと考えてしまう。
「ふっ、ごめん夏希、ちょっとお兄ちゃん借りるね」
どこか満足顔の陽は俺の背中を強く、強く押して夏希から離していく。
「陽ちゃん?」
「お前、なんだよ、突然?」
「わからないかな。今のままじゃ2人のデートは上手くいかないわ。だから、お兄ちゃん。あたしとちょっと付き合って」
陽はどや顔を決め、夏希を見据える。
夏希の方はどこか感謝しているような顔で、俺たちが遠ざかっていくのを見送っていた。
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