第4話 桃太郎

 その明後日、桃瀬は例の海辺へとやってきていた。

 女の恰好だとよからぬ輩が寄ってくるからと、瀬名が男物の衣と顔を半分くらい隠すことのできる襟巻を用意してくれた。おかげで、首から上は髪を男のように結い上げてしかいない桃瀬も、普通の男よりも少し華奢な少年に見える。何より腰には茂ノ助が以前使っていた刀をかけている。こんなに堂々と刀を持つ者を誰も女だとは思うまい。

 桃瀬はさっそく瀬名に共に行動するようにと言われていた三人組を探した。その三人は昔、瀬名に助けてもらった恩があるらしく、瀬名が桃瀬と共に行動してくれというと快く了承してくれたという。もちろん、女であることは三人にも秘密である。

「おい、そこのあんた。」

 力強く肩を掴まれ、よろけながらも振り返ると、そこには瀬名が言っていた三人らしき男たちがいた。

「おいおい、大丈夫か? 悪いな、力入れすぎちまった。」

 そういって桃瀬に詫びを入れたのは、少し赤みがかった髪色をした体格のいい青年だった。桃瀬は大丈夫だということを伝えようと首を横に振った。

「まったく、何をしてるんだ、猿丸さるまる。」

 猿丸と呼ばれたその人の後ろから出てきたのは、端整な顔立ちをした、桃瀬よりも少しだけ背の高い青年だった。

「すまない。君が桃太郎だな。俺は犬千代いぬちよで、瀬名さんから君のことを頼まれている。これからよろしく頼むよ。」

 差し出された手に、桃瀬は戸惑いながらも大きく頷いてその手を遠慮がちに握った。ここでは、名も桃太郎と名乗るよう瀬名に言われていた。

「それと、こっちが幼馴染の猿丸と雉政きじまさだ。」

 次に犬千代が紹介したのは先程の青年と、その横で静かに桃瀬たちを眺めている長身の青年だった。

「……雉政だ。」

 長身の青年が言うと桃瀬も小さく会釈した。

「……。」

 自分のことをじっと見てくる雉政に首を傾けてみると、

「……いや、なんでもない。」

と、言って、ざわつき始めた人だかりの方に視線を向けた。つられて桃瀬もそちらの方を見ると、例の領主が大勢の家来を引き連れてやってきたところであった。

「皆、よく集まってくれた。我々はこれより、財宝の島といわれる鬼ヶ島を目指す。……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る