第23話 顔

顔     松下育男


こいびとの顔を見た

ひふがあって

裂けたり

でっぱったりで

にんげんとしては美しいが

いきものとしてはきもちわるい


こいびとの顔を見た

これと

結婚する


帰り

すれ違う人たちの顔を

つぎつぎ見た


どれもひふがあって

みんなきちんと裂けたり

でっぱったりで


これらと

世の中 やっていく


帰って

泣いた




 ✦✦✦


 


コンビニの駐車場に車をとめて、店に出入りする人を眺めたり、

駅なかのカフェで、構内に出入りする人を見下ろしたり、


そんなときふと、松下育男さんの『顔』の詩を思い出します。

このたくさんの人のなかで、心から幸せだと言い切れる人は、どれだけいるのだろう。

そう問いかければ、じゃあ自分は心から幸せだと言い切れるのかと、問いが跳ね返ってくる。




✦✦✦




かなしみ     谷川俊太郎


あの青い空の波の音が聞こえるあたりに

何かとんでもないおとし物を

僕はしてきてしまったらしい


透明な過去の駅で

遺失物係の前に立ったら

僕は余計に悲しくなってしまった




 ✦✦✦




夕暮れ時の踏切。電車が通り過ぎるのを待ちながら、空を見上げる。

すごく大切なものを失くしてしまったような気がして、途方に暮れてしまう。

それでもわたしの中にあるなにかが思う。


人を信じたい。

自分を信じたい。

世界を信じたい。

今度こそ神を信じ抜きたい。


裏切られても冷たくされても、殺され滅んだとしても、すべてをゆるしている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る